「楠木正行という役をやらせていただけたのも、巡り合わせの縁なのかなと思っています」
――退団公演の『桜嵐記』について伺わせてください。作・演出の上田久美子先生は、いまや宝塚歌劇団でも評価の高い演出家ですが、珠城さんのバウホール初主演作であり、上田先生のバウホールデビュー作でもあった2013年の『月雲の皇子』からのご縁です。その上田先生の描いた、身を投げうちひたむきに戦いに臨む楠木正行という役が、珠城さんの舞台に向かうまっすぐな姿勢と重なり、作品としての評価も高かったです。
なんか不思議ですよね。上田先生とは『月雲の皇子』を一緒にやらせていただいただけでなく、『BADDY—悪党は月からやってくる—』という先生にとって初めてのオリジナルショーでもご一緒させていただいています。『BADDY』は、自分にとっても新たな扉を開いてくれた作品で、どこか先生とは、二人三脚でともに新しいものに挑戦してきた感覚がすごくありました。
『桜嵐記』の楠木正行に関しては、私のための役というわけではなく、もともと上田先生が作品を書きたいと思って温めていらっしゃった題材のうちのひとつなんですよね。
それを、退団公演を担当することになった先生が、私に合うんじゃないかって言ってくださった。
すごく良いタイミングで、素敵な作品をやらせていただけて、これも巡り合わせの縁なのかなと思っています。
――そして退団公演のショー作品というと、タイトルにそれらしきものが入ったりすることが多いですが、珠城さんの第二幕のショーは『Dream Chaser』でしたよね。
退団公演だからといってサヨナラムード全開になるのが嫌だったんです。それに引っ張られてしまいそうで……。
最後まで男役を楽しみたいという気持ちもありましたし、組のみんなにとっても、新たなことに挑戦できる公演であって欲しいという思いもあり、演出家の中村暁先生にご相談させていただきました。
ただ、フィナーレナンバーに関しては、ぐっと退団モードにしたいという中村先生のご意向が反映されています(笑)。
2021.11.03(水)
文=望月リサ
撮影=鈴木七絵
動画=松本輝一
ヘアメイク=赤松絵利(ESPER)
スタイリスト=重光愛子(A.K.A.)