「ドラマがあれば生きていける」

 ライフワークがドラマ鑑賞で、新しく素敵な俳優や監督、脚本家やスタッフを探して推すのが趣味という畑井 優さんが、今クールのドラマの見どころを徹底紹介! 通信簿をつけていきます。

 今回は今クールで一番楽しみにしていて、最終回を迎えたら社会復帰できるか不安とまで語る「うきわ―友達以上、不倫未満―」(テレビ東京系 毎週月曜夜11時6分~)を採点。

 最終回直前ということもあり、これまでの振り返りも含んでいるので未見の人はネタバレ注意。でも「うきわ」ファンはもちろん、ドラマ好きなら読んで損なしです!

 毎週楽しみがある生活って、素敵なもの。好きなドラマがあればそんな素敵な生活が約束されますよ。


正直、今クール一番推したいドラマでした「うきわー友達以上、不倫未満ー」

【あらすじ】

 社宅住まいの主婦・中山麻衣子(門脇麦)は、夫(大東駿介)の仕事の都合で広島から上京してきたばかり。東京での新生活に胸を弾ませながら、家事をこなす毎日だった。しかし、仕事が多忙な夫は毎晩帰りが遅く、せっかく作った夕食も食べてもらえない日々がつづく。

 そんな時、隣室に住む夫の上司・二葉さん(森山直太朗さん)とベランダの壁一枚を隔てて会話をしたことで仲良くなる。

 優しく聞き上手な二葉さんに、麻衣子は次第に心を許していくが、二葉さんには一人抱える後悔と秘密があった。そして、麻衣子が初めて知ることになる夫の嘘――。麻衣子のこれまで“信じてきたもの”や“普通”が崩れ落ちていく……。

 不倫――。それは決して許されない不貞行為。しかし、信じていた人に裏切られた時、立ち上がれなくなった時、手を伸ばした先にある救いがそれだけだったら。

 これは不倫じゃない。そう言い聞かせながらも相手の心に触れ合うにつれ、惹かれ合っていく麻衣子と二葉さん。“緊急時には、この壁を突きやぶって隣りへお逃げ下さい”と書かれたベランダの非常壁。果たして二人はこの壁を越えてしまうのか……。

その場の空気と感情が画面からあふれ出るような演出 ◎

 決して言葉数の多いドラマではない「うきわ」。しかし演出や俳優陣の表情がセリフを補完します。漂う空気と、感じた憤りや息苦しさ、喜びやときめきが画面から溢れ出てくるように伝わってくるのです。

 特に、主人公・麻衣子の感情を比喩してフラッシュが入ることがあるのですが、これがまた秀逸なのです。

 夫婦でうわべだけの言葉を掛け合っている時は“仮面を被る”、些細な楽しみの時間を無情にも壊されたときには“作りあげた砂の城を蹴り飛ばされる”。二葉さんと食事に行った翌日、彼のことで頭がいっぱいになってしまった時は“目の前を通る人が全員二葉さんになってしまって”あわあわしたり。

 心の中が透けているかのような絶妙なフラッシュが入り、より麻衣子に感情移入してしまうし、思わずくすっともしてしまいます。

 ここからは個人的な考察になりますが、この絶妙なフラッシュ、初期はほとんど主人公・麻衣子の心情を表現していたのですが、第5話で勇気を出してベランダの壁を乗り越えてからはほとんど出てこず、その代わりに彼女は自分の気持ちや思いをしっかりと口に出して発することが出来るようになっているのです。ただし、夫以外に……。麻衣子のしたたかさに痺れるポイントです。

 話を戻しまして。緊迫して張り詰めた空気が伝わってくるのはもちろん素晴らしいのですが「ああ、もう取返しがつかなくなるんじゃ……」という感覚になる演出もヒリヒリします。

 主人公の麻衣子と夫は部屋着でも決してペアルックになることはないのに、夫は浮気相手・福田さん(蓮佛美沙子)の家で、お互いに似たような白いTシャツを着て過ごす。自宅では毎食手作りの食事が食卓に並ぶのに、それを断って、夫は浮気相手の家でカップラーメンを食べている。

 二葉さんがコンビニの唐揚げのホットスナックを食べている時、奥さん(西田尚美)は浮気相手の家で唐揚げを揚げている。細かいですが「徐々にすれ違いが加速している」様子が手に取るようにわかるのです。

 これは俳優陣の演技力はもちろんですが、巧みに張り巡らされた演出の意図が大きく貢献しているのだと思います。迷わず◎です。

2021.09.26(日)
文=畑井 優