思わず惹かれる門脇麦の表情 ◎

 この作品の門脇麦はたくさんの表情を見せてくれます。

 作品初期は田舎から出てきた垢ぬけない、少女のようなイノセントな表情が魅惑的です。社宅という定められた空間、すれ違いの夫婦生活の中、首輪をはめられているような息の詰まった苦しそうな顔。二葉との時間に見せる、恋する少女の顔。夫の浮気を知り、感情が溢れ、目を真っ赤にして泣きじゃくる顔。思わずテレビの中に手を差し伸べて、助けたくなります。

 しかし、夫の不倫の疑いが事実とわかってからは何かを決めたかのような表情を見せ、美しくもありながらしたたかな表情をするようになる麻衣子。それまで波風を立てぬように控えめで自分を抑え込むようにしていた彼女が、夫の心の中を覗こうとしているような表情をした時には、底知れぬ恐ろしさを感じました。

 作中で一番好きな門脇麦の表情は、中山家と二葉家のベランダの仕切り板にある「緊急時はこの壁を突きやぶって隣へお逃げ下さい。」という文字を見つめている時。

 強風に耐え忍ぶ、切なく可憐な花のようでありながら、一方で「緊急時」を求めている、もっと強い風が吹いて隣のベランダへ行けたらいいのに、というような表情。結果的に彼女は自ら壁を乗り越えることを決意します。

 笑顔、とか怒っている、とかそんな一言で語れるような感情ではなく、複雑な感情を見事に表現している門脇麦を見ていると画面に惹き込まれていきます。彼女は今どんな風に感じているんだろう。門脇麦の表情の余白は私たちにそんな風に考えを巡らせてくれます。それは1話から回を重ねれば重ねるほど強くなる。もちろん◎以外ありえません。

 最終話、いったいどんな表情を見せてくれるのか、本当に楽しみです。

大東駿介演じる夫のクズさ ◎

 浮気相手の連絡先登録を「車修理110番」にしている所でどうしようもない奴だと思いました(社用以外では車に乗っているシーン見たことないぞ!)。

 脇も甘すぎです。浮気相手から届くメッセージがロック中の画面に出てきてしまう設定になっている。それで隠せていると思っている。自分からは浮気相手の家に行くと言わずに、相手に誘わせる。

 浮気がバレたと思い当たる節がありすぎたら、個室でお高めの食事をご馳走し「バレたかも」の一言で相手の表情を伺ってみる。でも決して関係を辞めたいとは言わない。すがすがしいほど嫌な男です。

 極めつけは第7話で妻の麻衣子を家に連れて帰るシーン、手首をもって引っ張るだけで、手を繋ぐことはなかったんです、彼。浮気相手の福田さんとは手をつなぐのに‼ そんな細かい演出を発見することが出来てにやけてしまいました。

 「友達の彼氏だったら『そんな奴やめときな!』と言いたくなる男ランキング」にランクインしている人々を全部まとめて鍋に入れて、一昼夜煮込んだらこんな人ができるんじゃないか。◎です。

 でも、こういうやつがモテるんですよね……。良いところがほぼないのに、憎めないんですよ、彼のこと。なぜでしょう……。

 浮気がバレたかもと焦りつつも、バレる要素がないと思い込み、いつも通り穏やかなのに妻の真意が掴めない表情に「隠さず思ったことを言ってくれ」と伝えた彼。

 麻衣子は今までのように遠慮して自分の気持ちを言えないのではなく、あえて言わなかったと知ったら、どんな表情をするのでしょうか。今、彼が一番“うきわ”を求めているような気がします。

総評 ◎ よくできました!

 「うきわ―友達以上、不倫未満―」にはこれまでの不倫ドラマにあったような、艶めかしさや湿っぽさはなく、刺激的な愛憎渦巻くバトルもありません。

 ただ淡々と日常が流れていく中で、ひっそりと事件が起きて誰も知らぬうちに終わって、また何かが起こって。知らぬうちに心が蝕まれて、でも誰かにこっそり治してもらって。

 “そこ”にある繊細な心の動きや、漂う空気の変化をじっと見つめさせてもらっているような人間臭いドラマなのではないかと思います。

 ここまでのストーリーでは、大海原に投げ出され溺れかけているような、息苦しくて窮屈で押しつぶされそうになりながら過ごしている、似た者同士だった麻衣子と二葉さんは、“うきわ”のように救い合い、お互いが心の支えとして大切な存在となっていたことが分かり、それによって勇気を手に入れたように見えました。

「ここから先に進んではいけない事は分かっているけれど、決して終わらせたくない」

 そんな心の中をお互いが理解し合い、麻衣子は一歩踏み出す勇気を選択して、二葉さんのそばにいたいという思いを伝える。それに対して二葉さんは一歩踏み出さない勇気を選択して、これ以上関係を進めないために思いをあえて伝えない。

 それぞれがそれぞれの“うきわ”であり続けたまま、これまで通りの日々を続けることに。

 決して不倫の関係にはならないけれど、そばにいることで落ち着けて、安心できる心地よい温もりを享受し合う二人。

 しかし二葉さんの転勤が決まり、それを知った麻衣子が驚くところで物語は終わりました。最終話、どんな選択をして、どんな答えを出すのでしょう。麻衣子の必死にこらえる涙目と、反対にスッキリしたような笑顔が印象的な次回予告でした。

 軸となる麻衣子と二葉さんだけでなく、その周りの人物たちも登場していない間「どうしているのかな」と気になります。果たしてそれぞれが選ぶ道は、幸せになれるのでしょうか。

畑井 優

ドラマ制作に携わりながら、ドラマをこよなく愛するドラマ大好きっ子。20代女子。好きなドラマのジャンルはミステリー。一番好きなドラマは「Nのために」(TBS 2014年)。

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ライフワークがドラマ鑑賞で、新しく素敵な俳優や監督、脚本家やスタッフを探して推すのが趣味という畑井優さんが、今クールのドラマの見どころを徹底紹介! 通信簿をつけていきます。

2021.09.26(日)
文=畑井 優