端から端まで美しく尊い“エンタメ界の三十三間堂”

 過去には闘牛にハマってスペインに通い詰めていたこともあるという、えすとえむさん。現在は長年住んでいた東京を離れ、宝塚市にお住まいとか。

「宝塚大劇場の横を流れる武庫川沿いをぼーっと歩きながら、『あ、引っ越そう』って。思い立ったらそこから引っ越しまではすぐでしたね。今は観劇の合間や休演日に仕事を詰める過密スケジュールです(笑)」

 公演毎の度重なる遠征を考えると、宝塚大劇場の近くに住むのは、全ヅカオタの夢。そして改めてえすとえむさんに、そこまでハマる宝塚歌劇の魅力を伺った。

「宝塚って、“観るもの”というより“浴びるもの”という感じなんですよね。マイナスイオンなんていう生やさしいものじゃなく、スプラッシュ・マウンテン的な(笑)。世界中の美しくキラキラしたものを一堂に集めたんじゃないかというくらい舞台の上が光り輝いていて、客席に降り注ぐ発光体を浴びにいくような感じ。舞台の端から端まで、どこを見ても美しい顔が並んでいて、その中で“この人だ”という人に出会うこともできる。その尊さもひっくるめて“エンタメ界の三十三間堂”です。

 それを3時間近く浴び続けると、こっちも自家発電して熱くなってくる。ソーラーパワー的な効果があるんです。そのせいか、劇場から出てくるファンは、みんな温泉から出た後のようなホクホクした顔をしていますよね。そう、宝塚はどんな人をも優しく包み込み癒やしてくれる、温泉地のような存在でもあります。」

 初心者にはハードルが高いと思われがちな宝塚歌劇だが、興味をもったらまずは宝塚ファンの友人・知人に声をかけてみるといい。日本一美しい“沼”への入り口は、案外すぐそばに開かれているかもしれない。

えすとえむさん

東京都出身。漫画家。2006年『ショーが跳ねたら逢いましょう』でデビュー。2020年『いいね!光源氏くん』(祥伝社)がNHKでドラマ化。現在「コミックタタン」(コアミックス)にて「CITY HUNTER外伝 伊集院隼人氏の平穏ならぬ日常」、「女性セブン」(小学館)にて「王様の耳~秘密のバーへようこそ~」を連載中。

2021.09.23(木)
Text=Lisa Mochizuki
Illustrations=est em

CREA 2021年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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