ファンにツッコミどころを残してくれるのも魅力のうち
「宝塚ファンのコミュニティって、圧倒的に平和で優しいんです。宝塚歌劇のモットー“清く 正しく 美しく”が、ファンの間にもしっかり浸透しているんだと思います」
とはいえ宝塚の舞台のなかにはかなり強引なストーリー展開の作品も……。
「そんな作品も、よくもここまで美しいところを掬い取ったなと思うほど好意的な感想ばかり。たとえ作品が物足りなくても、ご贔屓の舞台を貶めたくないというファンの健気な愛がそこに溢れています。もはやどれだけ美しい言葉で作品の良さを掬い上げられるか勝負、というか。それを見て、おのれのファンとしての未熟さを反省させられることも多いです」
どこかツッコミどころがあるからこそ、一度観たらクセになるのかも!?
「どんな作品も、みんな自分なりの“好き”ポイントを見つけて、それを友達とああでもないこうでもないと語り合えるのが、一番の楽しみなのかもしれないなと思うんですよ。伝統と煌びやかさとツッコミどころにもみくちゃにされる、100年続くエンタメ力すごい……とよく途方にくれます」
宝塚歌劇が100年以上続いてきた理由のもうひとつに、スターが入れ替わっていくというシステムがある。
「ファン同士で集まると、次のトップスターは誰がなるか、トップ娘役は誰か、二番手スターは誰になるのかと予想を立て合い盛り上がるのは、宝塚ファンあるある。でも、現実は予想通りにならないことも多くて、歌劇団から時折発表される人事に、ファンは一喜一憂させられる。でもそこでファン同士が意見を戦わせ、時に文句も言わせることで、宝塚熱がより燃え上がるのも事実。文句を言いながらも、結局は付いていってしまうのがファンの性なんですよね……」
どんなに人気を誇ったトップスターでも、あるタイミングで卒業を発表し退団していく。そしてこの取材時には、月組トップスター珠城りょうさんの退団が目前だ。
「劇場でどんなに一生懸命目に焼き付けようと見ていても、『ライトを映す瞳がきれいだったことしか覚えていられない気もするし、それで十分なような気もする』と、ふと寂しい気持ちが去来します」
退団という終わりがあるからこそ、一層その儚い美しさに魅了されるのが宝塚。そして空白となったその場所に、次のスターが立つ。そうやって新陳代謝を繰り返し、時代に合った新しいスターを輩出しているのだ。
「トップさんの在位は2年ほどから長くて6年程度。でもそのマックス輝いているところを観られるからこそ尊いんです。組を引っ張ってくれていたトップスターの退団は悲しいですが、宝塚には次のスター候補がひしめいていて、客席に座っていれば、目の前に次のスターが来てくれるんです」
2021.09.23(木)
Text=Lisa Mochizuki
Illustrations=est em