「エリザベート役は調整を重ねてようやく辿り着きました」
――5月頭に無観客配信された『エリザベート TAKARAZUKA25周年 スペシャル・ガラ・コンサート』のエリザベート役が素晴らしかったです。ガラ・コンサートながら女性役で初めて舞台に立ったわけですが何の違和感もなく……。
やめてください(照)……不安だらけでした。女性らしいキラキラのドレスも、ああいうヘアメイクも初めてで、しかも相手役が男役さん(※注:主役のトートを元雪組トップスター・望海風斗さんが演じた)ですから。
舞台にのるわけですし、きちんとした準備……稽古をしないと臨めないもので……。
これまで十何年やってきたこととは逆の立場で歌と演技をするというのは、自分にとっては相当新しい挑戦でした。
舞台稽古も相当大変で、「男性にしか見えない」と言われて。本番までにヘアもだいぶ変えましたし、メイクはまつ毛から下地の感じから全部変えて、調整に調整を重ねてようやく辿り着いたものなんです。
先日させていただいたのは宝塚版の『エリザベート』がベースですが、そうじゃなかったらもっと不安だったろうなと思います。
――宝塚時代から、細やかに役作りをされている印象でしたが、ガラ・コンサートは初日からわずか3回公演だったにもかかわらず、1日ごとに役がより深まっていて、そこも素晴らしいなと。
やっぱりより良くしたいし、それが楽しくてやっているので。舞台の魅力ってそこじゃないですか。
場数を踏むことができるから、どんどん深めていける。場数って、すごい大事なんですよね。
ガラ・コンサートで演じたエリザベートは、3回きりで無観客という形にはなってしまいましたけれど、経験させていただいて、本当にありがたかったです。
これもガラ・コンサートの話になりますが、トート役も、6年ぶりにやらせていただいたんですね。
在団中に演じた時は、男役としてとかトップとしてとか考えて、自分なりの新しいトート像を確立しなければ、みたいなプレッシャーがありましたが、この時は今の自分のトートを演じていいんだと思って臨んだら、すごく楽しく演じられました。
同じ役だけれど、感覚が全然違って、幅が広がった気がします。
「宝塚に入ったのは大正解だった」と思えるように
――この言葉が適当かはわからないのですが、明日海さんって“諦めない人”だなと毎回思います。上を目指すことを諦めないし、役を追求することを諦めない。ものすごく根性があるというか……。
確かに(笑)。どうしてだろう……。やっぱり今のままだと嫌なんですよね。なかなか自分に自信が持てないというのもあって、自分をもっと良くしたい気持ちが強いのかもしれません。それは誰かと比べるとかではなく。
あと根本に、宝塚を目指した時に両親の反対があったのにも関わらず、それでも押し切って飛び込んだというのもある気がします。
在団中、途中で辛くて辞めたいと思うこともなくはなかったです。
でも、あれだけ言って入ったのだから、「あの時に宝塚に入ったのは大正解だったね」って思いたかったし、絶対に挫折したくなかった。
だから、どんなに道のりが長くても、1日後にはもっと良くなっていたい、1作後には、1年後には……と頑張れた気がします。
その思いは今も同じで、「宝塚を退団して、また演じるお仕事を始めて良かったね」っていう結末に絶対したい。だから諦めたくないんです。
――この先、ミュージカル『マドモアゼル・モーツァルト』も控えています。映像作品も含めて、これからもっといろいろな明日海さんが見られるのが楽しみです。
そう思っていただけるなら嬉しいです。私も同じ気持ちなんですよ。
宝塚を退団して、今までやってこなかった役……選択肢というか、可能性がすっごい広がった気がするんです。
組を率いていくのが嫌だとか、束縛されていたとかでは全然ないんですけれど、それらを持たなくなった今、少し軽やかさを感じています。
こんな自分、知らなかった……みたいな。その分、責任は全部自分に返ってくるんですけれど、そこも含めて新しい挑戦だなと思っています。
――演じてみたい役などはありますか?
月並みですが、何でも演じてみたいです。
今まで、男性はいろんな振り幅の役をさせていただきましたので、女性として、いろんな種類の役柄ができたらと思っています。
だからといって、突拍子もない役をくださいっていうわけではないんですが。そうやって七変化……違和感なくどんな役にも染まることができるようになりたいです。
私のことをご存じの方には、「明日海さんって、こういう役が似合うって思っていたけれど、今回は全然違う感じで来たな」と思っていただけたら嬉しいし、ドラマや『明日海りおのアトリエ』で私のことを知ってくださった方には、「舞台に上がるとこんな感じになるんだ」って思っていただけたら。
そしてそれが、受け取る皆さまの心を動かせるようないい作品になったら嬉しいなと思います。
明日海りお(あすみ・りお)
1985年6月26日生まれ、静岡県出身。2003年に宝塚歌劇団に入団。可憐な容姿と高い技術力を持った男役として下級生時代から注目を集め、14年に花組トップスターに就任。お披露目公演では『エリザベート -愛と死の輪舞-』のトート役を演じ大きな話題に。歌にも定評があり、19年にはタカラジェンヌでは初となる横浜アリーナでのコンサート『恋スルARENA』を成功に導いた。同年11月に惜しまれながら退団。退団後は、連続テレビ小説『おちょやん』やドラマ『青のSPー学校内警察・嶋田隆平ー』などに出演するほか、今年頭には宝塚時代に人気を博したミュージカル『ポーの一族』のエドガー役を再び演じ話題になったほか、ドラマ『コントが始まる』では、これまでの可憐なイメージを覆す、ファミレスの店長で雀士を目指す役柄に挑戦。朝の情報番組『ZIP!』の、6月の月替わり金曜パーソナリティーに決定。6月中の毎週金曜5時50分~8時・日本テレビ系にて生放送出演。10月には主演ミュージカル『マドモアゼル・モーツァルト』も控える。
Huluオリジナル『明日海りおのアトリエ』
元宝塚トップスター・明日海りおによる初の冠番組。秘密基地として用意された真っ白いアトリエで、コーヒーの美味しい淹れ方やお米の美味しい炊き方など、誰もが真似したくなるような、ささやかだけれど日常生活に彩りをもたらしてくれるようなテクニックが満載のドキュメント・バラエティ。第1回は「新しい仕事・新しい空間 癒しの空間づくり」としてインテリアショップを訪れ、真っ白なアトリエを自分好みの空間にアレンジ。以降、食や美など幅広い観点から、さまざまなことに挑戦していく。オンライン動画配信サービス・Huluにて毎週土曜1エピソードずつ配信中(全8回)。
2021.06.09(水)
文=望月リサ
写真=佐藤亘
ヘアメイク=山下景子(コール)
スタイリスト=大沼こずえ(eleven.)