「欲しいものとやりたいことが どんどん増えちゃっています(笑)」

――番組を始めて、ご自身の暮らしに影響されたことはありますか?

 まだ土鍋は手に入れていませんが、お米を炊飯器ではなくお鍋で炊くのはやりました。そんなに手間がかからないし、普通のお鍋でも美味しく炊けるんですよ。

 コーヒーは、まだ簡単に淹れられるパックのものを飲んじゃっていますけれど(笑)。

 アトリエにいて感じるのは、整頓された空間で自分の好きなものに囲まれて、自分のために時間をかけて何かをすると、すごくリフレッシュするんですよね。

 体も心も喜んでいるのを感じますし、どんどん自分の生活の中にも取り入れていきたいです。番組のおかげで、今欲しいものとやりたいことがどんどん増えちゃっています。

――宝塚在団中は、ひとつの公演が終わるとすぐに次の公演の稽古が始まるスケジュールですが、仕事とプライベートの切り替えは上手なほうでしたか?

 それが、今まではあまりしてこなかったんです。たしかに忙しかったというのもありますが、少し余裕があっても、その時間も仕事のことばかり考えてしまっていて、切り替えるという頭もなかったというか。

 長年ずっとその感じでやってきて、それで満足していたし、全然苦ではなかったです。

 でもやっぱりご飯は美味しい方がいいし、コーヒーも豆を挽くところから香りを楽しむ時間って豊かじゃないですか。そういう時間を設けることの楽しさに、ようやく今気づいたという感じです。

 在団中は、休みの日も仕事のことを考えていましたから、ついつい入り込みすぎて寝る時間を削ったり、翌日も疲れが取れないことがあったと思うんです。

 リフレッシュする時間を意識的に設けることで、いざ仕事となった時に、きっとこれまで以上にエネルギーの出かたがスムーズになる気がします。きっと健康にもいいですしね。

「今はとにかく場面の中にいかに馴染むかを考えています」

――NHK連続テレビ小説『おちょやん』を皮切りに、ドラマ『コントが始まる』など、映像作品にも進出しています。宝塚時代とは作品のテイストも役柄も違い、今は日常に根付いた演技を求められるわけで、役作りの目線も変わってきたのではないかと思うのですが。

 確かに方向性は全然違いますよね。とはいえ、作品のテイストや世界観を把握して、自分が役としてどう居たらいいかを考えるという意味での作業は同じだと思っています。

 今まで男の人になったことがないのに男性を演じてきたわけで、それはそれで難しいこと。

 私からすると、ファミレスで働いたことも(※『コントが始まる』ではファミレスの店長役を演じている)ないですし、そもそも女性としてやってきた経験もそんなになく(笑)、ハードルの高さで言ったら、あまり変わらないのかもしれない。

 今は、とにかく場面の中にいかに馴染むかを考えています。大切なのは、作品の中での自分の役割を把握して、画面の中に馴染んで主軸となる物語をきちんとお届けすることだと思っています。

 台本を読んで思い描いていたものと、実際に編集されたものが全然違っていたりもするので、オンエアを観て、みなさんのお芝居のテイストを把握しつつ、BGMの入り方や編集のされ方もチェックして、それをまた現場でのお芝居に生かしていく。

 そういう作業を今楽しく感じています。

――舞台とは違い、反応が直接返ってこないことでの難しさはあるものですか?

 じつは、ご一緒する俳優さんに「お客様がいないの、淋しくないですか?」って聞いたことがあるんです。

 でも、皆さんにとってはそれが当たり前のことだから、あまり同意していただけませんでした(笑)。

 ただ、演じたものが編集されて、世に生まれる瞬間というのは、舞台とは別の感動がありますよね。

 舞台はたくさんお芝居ができるところが好きですね。演じながら、次はもうちょっとこうしてみたらどうだろうと思ったら、それをやれる場所がある。

 でも映像は、撮影しちゃったら、よほどのことがない限り撮り直しができません。しかも、当日現場に行くまでどういう動きになるかわからないし、相手の方がどういう芝居で返してくるかもわからないスリリングさがある。

 瞬時にいろんなことを判断して出せるセンスも柔軟性も必要なだけに、気を引き締めて臨んでいます。まだ反省することが多いですが。

――今年頭のミュージカル『ポーの一族』の稽古期間、並行して『おちょやん』も撮られていたそうですが、いわゆる“縫う”(同時期に違う作品を行ったり来たりしながら演じること)のには慣れました?

 宝塚時代にも違う役を同時に進行していく経験はしていたので、わりと得意なつもりでいたんです。

 でも、その時は同じ作品のなかで二役とかだったんですが、まったく分野の違う作品で……その時は舞台とドラマという意味でもですし、作品の世界観も違えば性別も違うので、体の使い方から声の出し方も全然違っていたので苦労しました。

 毎回、現場に入る度に、舞台なら舞台、ドラマならドラマの感覚が「戻ってこい、戻ってこい」と。頭と心はとても忙しかったですけれど、それがちゃんとできるようになったらすごいことだし、今は必死についていってます。

2021.06.09(水)
文=望月リサ
写真=佐藤亘
ヘアメイク=山下景子(コール)
スタイリスト=大沼こずえ(eleven.)