相手のいいところばかり見えて、自信をなくした時期も

――同じ時期に宝塚でトップを務めていたおふたりが、退団されてから同じ事務所に入るというのもご縁ですよね。

柚希 宝塚音楽学校でいうと学年は10個くらい離れているし、組が違ったので、在団中はあまり交流がなかったのですが、今や何かあると連絡をし合う間柄です。退団してからのほうがあるかもしれないよね。

愛希 そうですね。

柚希 私が体調を崩した時も、連絡をしてきてくれたりして。あの時も本当に嬉しかった。

――おふたりとも宝塚時代、自分らしい“トップスター像”、“トップ娘役像”を築かれていた印象です。それは、ご自身のなかに“こうありたい”というブレない像みたいなものをお持ちだったからだと思うんです。そんな芯を持って進んでいく生き方に憧れますが、それぞれ大事にしているものはどんなものですか。

柚希 じつはそうでもない、と自分では思っているんですよ。まあまあ何でもできると思われがちなところがあるけれど、一緒の現場になった方に驚かれるくらい、何もできない。ひとつの公演が終わるとゼロ地点に戻っちゃって、次の現場で応用がきかない。振り返ってみれば、トップをやっていた時もそうだったんですよね。

 劣等感があるから、初日が開いてもなお、なんとかしようとやり続けて。でもそれって、ちゃぴちゃん(愛希さんの愛称)に対しても同じようなことを感じるんだよね。

愛希 宝塚の同期はよくわかってるんですけど、私も本当に何もできなかったんです。成績も悪いし、踊ることは好きだけれどバレエを少し長くやっていたくらいで、芝居も歌もできなくて。芸事に対して自信を持てたことが一度もないくらい。

 男役から娘役に転向した時も、最初こそ“THE 娘役”というものに憧れていたけれど、自分は絶対になれないことがわかって。思い切って自分らしい娘役でやっていこうって方向転換してからは、100年の歴史にひとりくらいこういう娘役がいてもいいのかもしれないって開き直って、少しラクになって楽しめるようにはなったかなとは思うんですけど……。

2021.05.22(土)
文=望月リサ
写真=鈴木七絵
ヘアメイク=黒田啓蔵(Iris) 、杉野智行(NICOLASHKA)
スタイリスト=間山雄紀(M0)、山本隆司