何回もやることによって自分の中で探せたんだよね、正解を

――では、この役をやったことによって学べたとか、この役がきっかけでそれ以降は変わったとか、そういう作品ってありました?

 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(2010年)かな。監督、三浦大輔。同世代でああいう人がいるっていうのは、それまで知らなかったんで。刺激を受けたのかな。

 自分と近いようで、全然違う人で、お芝居っていうものに対する見方とか……それまでは、自分がお芝居をやるっていうことに対して、べつに意識的じゃなかったし。セリフ覚えて、ちゃんとやろう、ぐらいで。

 でも、三浦さんと知り合って、「この人、何を映像で表現したいんだろう?」みたいな。

 撮ってる時は気づかなかったんだけど、完成した映画を観て、「ああ、もうちょっとこうしたほうがいいんだろうな」とか、「もうちょっとこういうことを気をつけようかな」とか、意識的になったのは、2008年の『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の撮影のあとかな。

――それ以前に知っていた、田口トモロヲさんや宮藤官九郎さんと、三浦大輔さんの演出は、違ったわけですね。

 違いましたね。まあ、怖い人。俺、今まで、怖い人と当たったこと、なかったっていうかさ。みんな優しい人で、「ここはこうしようか?」とか言ってくれるような。

 でも、三浦大輔は、気に食わないと、なんも言わないで「チッ」(舌打ちする)みたいな。聞こえるんすよ、役者の前でやるから。何が悪いんだかわかんねえの、こっちは。で、「チッ、もう一回」みたいなさ、そればっかりだから。

――うわあ。地獄ですね。

 でもさ、「もう一回」「もう一回」って、何回もやって、「あ、いけた!」って思う時があんのね。その時に「はいOK」って言うんだ、やっぱり。

 それはさ、「こうして」って言われて、そういうふうにやったことによって生まれるOKではないんだよ。

 何回もやることによって、自分の中で「あ、今の、よかった気がする」っていうのと、彼のOKが一致したから。自分の中で探せたんだよね、正解を。

 俺、そこまでチャレンジしたこと、なかったんだ。たとえば、セリフを噛んじゃったとか、動きが違ったとか、そういう時は「もう一回やろうか」って言われるよ? けど、そうじゃなかったんだよね、三浦さんの「もう一回」は。

 それから、「もうちょっとこういうことを気をつけよう」とか、意識的になったのかな、演じるってことについては。

――三浦大輔さんの舞台(『母に欲す』2014年)に出たのは、映画よりあとでしたよね?

 あと。一回経験できてたんで、そのお芝居の時はけっこう俺はすんなり入れたかな。

――映画で大変な思いをしたあとでも、三浦大輔さんの作品だから出た、っていうところは──。

 ある。手応えがあったから、あの人と最初にやった時にね。で、自分の中でもうちょっと、「あん時、もっとこうやったらよかったなあ」っていうのが……どんな作品でも、そういうのは残ってるけど、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の時は、特にあった。

 「次に一緒にやる時は、もっとちゃんと返したいな」みたいなのがあったから、リベンジじゃないけど。

――リベンジできました?

 うーん、結局は、ボロボロで、相討ちで終わった、みたいな(笑)。

 勝つとか負けとかじゃない、全部相討ちで終わってんだよね、もう。疲弊して終わるっていう。

――峯田さん、舞台の仕事はあれが初めてで、終わったあと「大変だった! もうやらない!」って言っていたのを、憶えてるんですけども。

 うん。無理だよ、あんなの! だってさ、あの1カ月で骨4本ぐらい折ってっから。

――ええっ!?

 無理だよ。人がやることじゃないよ、あんなの。

――あ、でも、銀杏BOYZのライブでも、しょっちゅう折ってたじゃないですか、当時は。

 折ってましたね。

――それとは違う?

 うん。自分のバンドによるケガは、自分で責任を負えるから。もし延期になっても、おカネを払うのは自分の事務所だし。

 でも演劇の場合ってさ、自分に責任がないでしょ。主催とか、プロデューサーの方に迷惑かかっちゃうからさ。だから、やめらんないんだよね、もう。やるしかないんだ。それがきつかったよね、迷惑かけらんないっていうね。

――芝居でケガするって、それは演出に従ってやってるとケガしちゃうのか、それとも峯田さんが入り込んでやっちゃうからなのか。

 わかんない。俺だからなのか、ほかの人もケガしてんのか、わかんないね。

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峯田和伸(みねた・かずのぶ)

1977年生まれ、山形県出身。ロック・バンド、銀杏BOYZのボーカリスト。最新アルバムは2020年10月21日リリースの『ねえみんな大好きだよ』。俳優としては、2003年に主演映画『アイデン&ティティ』でデビューして以降、『少年メリケンサック』(2009年)、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(2010年)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(2018年)等の映画作品や、「ひよっこ」(2017年/NHK)、「高嶺の花」(2018年/日本テレビ)、「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(2019/NHK)等のテレビドラマなど、多数の作品に出演している。

映画『越年 Lovers』

ほとんど話をしたこともない同僚の男にビンタをされた女、初恋の相手に会うために十数年ぶりに帰郷した男、もう二度とここには戻らないと心に決めて亡き母の家を片付ける女。日本、台湾、マレーシアの年越しの風景の中で不器用な3組の男女が織りなす物語。愛に生きた作家・岡本かの子が紡いだ傑作小説をもとに、素直になれずにこじれた恋心たちを描く。

監督・脚本:グオ・チェンディ(郭珍弟)
原作:岡本かの子『越年 岡本かの子恋愛小説集』(角川文庫)/『老妓抄』(新潮文庫)
出演:峯田和伸、橋本マナミ、ヤオ・アイニン(ピピ)、オスカー・チュウ(邱志宇)ほか
2021年1月15日(金)全国公開
http://etsunen.com/


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2021.01.15(金)
文=兵庫慎司
撮影=佐藤 亘