子役時代から注目され、今やドラマ・CMなどに引っ張りダコの存在となった女優・伊藤沙莉。
映画に対するこだわりや今後の展望から、「M-1グランプリ2019」ファイナリストの兄についてまで語る第2回。
●映画でしかできないことをしたい
――最新主演作である『タイトル、拒絶』では、デリヘル店に体験入店したものの、客の前から逃げ出し、今は店のスタッフをやっているカノウ役を演じました。
映画監督であり、この映画のプロデューサーである内田英治さんが私をカノウ役に選んでくださったのですが、カノウは「かちかち山」のウサギに憧れるタヌキのような、どこか自分に近い感覚の持ち主でした。
撮影現場ではいろんなタイプの女優さんが、変に力んだりせず、自由にお芝居をして、その役として生きていたんです。そんなお芝居合戦のようなものが、とっても楽しかったです。
映画『榎田貿易堂』(18年)やドラマ「全裸監督」(19年)のように、男性のスタッフや俳優さんたちに囲まれる現場が多いなか、こんなにたくさんの女のコに囲まれたのも嬉しかったです。
男性ノリも楽しいですが、ときどき言葉を巧く返せないこともあるので(笑)。
――今やお茶の間でも人気の伊藤さん。『獣道』に続く主演映画がセックスワーカーを題材にした『タイトル、拒絶』というのは、ちょっと意外にも感じます。
せっかく映画に出るなら、やっぱり映画でしかできないことをしたいじゃないですか! たっぷり時間をかけて、見せたいカットを撮って、贅沢なことができるのは映画ならではなことで、これがTVドラマだったら、また違うと思うんです。
私の好みとしても、「胸が痛い、痛い」となる映画が好きですし、そういう作品を映画館で観ると、スカッとするんです。
『タイトル、拒絶』も『獣道』と同じように、こういう設定や題材が目的でもいいから、是非観てもらって、ガツンと喰らってほしいですね(笑)。
●役者って、基本M体質ですから(笑)
――今やコントや声優もされているなか、今後やってみたい仕事はありますか?
新しいことではないですが、やっぱり定期的に舞台に立ちたいです。
お芝居との向き合い方は映像と違いますし、毎日毎日同じことをして、毎日毎日違うダメ出しを喰らって。
やっぱり、どこかで定期的に「打ちのめされたい」、「壁にぶつからないといけない」と思うんです。
役者って、基本M体質ですから(笑)。映像のお仕事でも、最近は「引き受けてくれますよね?」と期待してくれる状況があって、私としては「それを裏切ってはいけない。それ以上のお芝居をしたい」という、良きプレッシャーはあります。
ただ、同時に、周りから何も言ってもらえなくなってきているようにも感じます。
――近年、作品作りの現場でもいろいろと問題になっていますね。伊藤さん的には、良い作品を作るためなら、遠慮なく、何でも言ってほしいということですか?
そうですね。「そのアプローチは違う」でも「そんな芝居、見たくない」でも、言ってもらって全然構わないです。
それで、私が「そのアプローチは違う」と思ったら、ちゃんと話し合いますから。
スゴく優しいけれど、その反面で冷たさも感じる現場は正直、あります。
その点、舞台に関しては、決して怒られるわけではないですが、日々良くしていくためのダメ出しというか、微調整が付き物になっていますし、そのための時間がしっかり設けられていますから。
2020.11.12(木)
文=くれい響
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=AIKO
スタイリスト=吉田あかね