音楽とお芝居っていう、今自分を占めてるバランスがちょうどいい
2021年1月15日(金)から全国公開中の映画『越年 Lovers』は、3つの物語で構成された作品。
台湾・日本・マレーシアを舞台としたそれぞれの話のうち、日本編の主演を務める銀杏BOYZ峯田和伸に、音楽と芝居の両立について、役を演じるうえで考えていることなどをインタビュー。
長年親交のある音楽ライター、兵庫慎司が聞き出した、俳優としての峯田和伸ならではの芝居への想いとは?
――峯田さんは以前、役者をやっていると、音楽を作りたくなる、音楽だけやっている時よりも、役者もやっている時のほうが、健全に音楽制作に向き合えるのかもしれない、みたいなことをおっしゃっていたんですね。憶えてます?
難しくて。音楽だけやってると、たぶん、人間らしさは、なくなっていくんですよ。人間らしさというか、社会性はなくなっていく。
朝方までスタジオにこもって曲を作って、太陽を見てない、っていう暮らしをずっとしてると、人によってね……俺の場合は、社会生活っていうものとか、人とのコミュニケーションとか、人として大事なものがね、消耗していく感覚はあんの。
だから、ずっとそれをやっていくと、ものすごい純度の高い作品は生まれっかもしれないけど、人としては……20代だったら、まだ体力もあるし、なんとかやっていけるんだけど、年齢を重ねてくと、だんだんガタもくるっていうか、精神的にもきつくなっていく人は多い、っていうのはわかんのよ、経験上。
作品は、ものすごいものを作ってるけど、その人自体はだんだん壊れていく、みたいな。でも、それを、みんな天才って呼んだりすんじゃん、破綻してく人のことを。
――まあ、確かにそうですね。
でも、ドラマとか映画って、朝7時集合とかで、ロケ弁とか、朝昼晩出るしね。健康的だよね。
――(笑)。なるほど。
そうやって人間に戻れんのよね、たまにそういう仕事が入ると。だから、そのバランスがちょうどいいんです、今。
7:3なのか、8:2なのか、音楽とお芝居っていう、自分を占めてるこのバランスがね、よくて。だからべつに病んだりもせず……まあ時間はかかってるけど、アルバム、出せてるな、っていう。
だからもし、お芝居っていうものがないまま、音楽だけやってたら、どういう感じになってたのかなっていう……わかんないけどね。
――峯田さん、芝居の時は、100%人の言うことを聞くわけじゃないですか。
聞くよ、うん。
――でも、音楽をやっている時は、人の言うことを聞く能力が、まったくないじゃないですか。
ないない。
――そこが正反対なのもいいのかもしれないと、今、話を聞いていて思いました。
お芝居では、監督の言うことを聞いてるね。
ほいでさ……たとえば、道を歩いてて、おばちゃんから、「『ひよっこ』、観てるよ」とかさ。そういう一般的な、認知度みたいなのが上がったりもして、ちょっと浮かれちゃってさ、気が大きくもなれるし。
その分、音楽の現場に行くとね、もっと自分がやりたいことに、貪欲になれる。「こういう曲のほうが売れるかな」とか気にせず、自分がやりたい音楽をできるんだよね。
――ああ、一般社会とのコネクトは、役者・峯田にまかせた、と。
だから、自分は向いてると思う、今の感じのほうが。
――でもそれ、逆に、音楽のほうのスタッフは、どんどん大変になっていくということ?(笑)。
スタッフもそうだし、固定メンバーが抜けてったのも、そういうことだよね(2013年に峯田以外のメンバー3人が脱退)。
今の体制って、サポート・メンバーなんですけど、各々それぞれ自分のホームがあって。だから俺が芝居やってる間も、メンバーはメンバーで好きなことやれてるというかさ、自分のバンドで。
今の状態がいちばんいいっていう。そうじゃないと、俺が撮影の現場に1カ月行ってる間、ほかのメンバーは何やってりゃいいんだ、みたいになるしね。
2021.01.16(土)
文=兵庫慎司
撮影=佐藤 亘