今回は一切笑いのない片桐はいりさんと素の林(遣都)くんを出そうとしました

――みつ子の上司には片桐はいりさん演じる澤田を配置。片桐さんは『勝手にふるえてろ』ではオカリナを吹く不思議な隣人役でしたが、まるで対照的(笑)。ヒールにパンツスーツのかっこいい女性を演じておられました。

 はい、今回は一切笑いのない片桐はいりをお届けしています(笑)。

 澤田さんは完全に当て書で、小説にはない役を作りました。みつ子は自分のことを有能じゃないと思っているので、有能な大人の女性を見るとアラを探してしまうんじゃないかなと思ったんです。

 でも、アラを見つけてもどうしても嫌いになれないくらい、魅力的な素敵な女の先輩を出そうと澤田役を書きました。

 はいりさんは、ヒールでは苦しんでいらっしゃいましたね。「このシーンでは脱いでてもいいですか?」なんて(笑)。結局、全シーンきれいに履きこなしてくださいました。

――みつ子の恋のお相手、多田くん役の林遣都さんは、大九監督に演出されるのが楽しくて、もっと演出を受けたいと東京国際映画祭の舞台挨拶でおっしゃっていましたが、どういう演出をされたのでしょうか?

 ほかの俳優さんと一緒です(笑)。現場でお芝居されることに対して、もうちょっとこうですかね? と修正をしていきながらキャラクターを作っていく感じです。

 最初、林くんが超かわいい感じで多田くんをやってくれたんです。

 でも、すでに本人の存在そのものが十分かわいいので、素の林くんに一番近いところをいただきたかった。

 だから、どちらかというと(芝居を)そいでいく作業をしていたかもしれません。

 のんさんもおっしゃっていましたが、林くんは瞬発力がすばらしい。

 ひと言何かを言うと、すぐに察してアジャストしてくださる。どんどん変化していく、作る楽しさを味わいました。

 東京国際映画祭の舞台挨拶では、アクリル板ごしに、ぺこりと私に向かってお辞儀しながら、そう言ってくださったんです(笑)。

 もう、なんちゅうかわいいことを言ってくれるんだ! と思いました(笑)。

 もしも、その言葉が本当なら、私こそ、ぜひまたご一緒させてくださいという気持ちです。

2020.12.20(日)
文=黒瀬朋子
撮影=平松市聖