ある意味この作品が 自分にトドメを刺してくれた
撮影が行われたのは、2018年の12月から2019年の1月にかけて。寒い工場の中でひたすらラブドール作りに専念し、外で休んで、また戻って作業をする、の繰り返し。
途中からはあえて哲雄の生活に近づけるため、ジャンクなハンバーガーを食べ続ける日々だった。
「哲雄の中の園子はどこまでも純粋な女性だと思っていたのに、突然目の前からいなくなってしまうし、自分の知らない衝撃の事実を告げられるし……。一方で自分はハンバーガーばっかり食べているし。
そうすると、なんだか訳がわからなくなってくるんです。なんで生きているんだろうって。それがある意味、人間が感じる絶望の極地というか。
そこまで絶望を味わい尽くしてしまうと、もう、希望に向くという選択肢しかなくなるんです」
お芝居とはいえ、疑似体験で絶望を味わったことは、高橋さんにも大きな気づきをもたらした。
「喜びや幸せは、ある意味自分に付加するものだと思うんです。
けれど、それを剝がすと、人間のベースは基本、絶望。『うれしい!』『楽しい!』ということがたくさん付加されると、反動で絶望を味わうことになるんです。
ここ2~3年くらい僕なりに絶望への急降下を味わったつもりだったので、ある意味この作品が自分にトドメを刺してくれた感じでした。
そこを経験すると、次は淡々とお芝居を見つめていくだけの作業になるというか。純粋に『周りの人がどれだけ喜んでくれるものを作っていけるか』という思いにシフトし始めるんです。
疑似体験で絶望を味わったから、これから自分の本当の絶望が来た時に、ヘラヘラしていられるかもしれません(笑)。
死にたいくらい辛いことが起きても、容易に乗り越えられるような気がしています」
2020.09.13(日)
文=松山 梢
撮影=桑島智輝
ヘアメイク=田中真維(マービィ)
スタイリスト=秋山貴紀