グランドキャニオンで買った
お土産の秘密とは?

90年に行われた第38回菊池寛賞授賞式の控室での1枚。
90年に行われた第38回菊池寛賞授賞式の控室での1枚。

 兼高さんの影響でしょうか、幼い僕の心の中にも、秘境に対する興味がムクムクと湧き上がってきました。

 日頃から、グランドキャニオンやモニュメントバレーの写真なんかを目にしては、こんなところに行ってみたいなあという思いに焦がれていたんです。

 僕はオカルト雑誌「ムー」の愛読者でもあったから、ペルーやメキシコなどにある、宇宙人伝説が残る土地にも夢中になったものですが(笑)。

 そんなことをぼんやり考えていた小学5年の夏休み、すでに母と離婚して別の暮らしを送っていた実の父と、アメリカを旅する機会に恵まれました。

 サンフランシスコ、ロサンゼルス、ラスベガス、ハワイを駆け足で巡る9日間の旅程です。

 ラスベガスを訪れた時、眠っている僕を置いて夜中にカジノへと繰り出した父が大当たりしてにわかに羽振りがよくなったらしく、翌朝、急に「どこ行きたい?」と聞いてくる。

 「グランドキャニオン!」と即答したら、本当にすぐ連れて行ってくれました。セスナをチャーターして、日帰りで。

 崖の間を縫って飛ぶような、スリリングなフライトは忘れられません。雷も結構激しかったな。

 グランドキャニオンのレストランにお土産コーナーがあって、そこで貯金箱を買ったんですよ。崖の突端に鹿が立っているというデザインが、いかにもアメリカっぽいセンスだなあと思って。

 ところが、日本に帰って貯金箱の底を見たら、「Made in Japan」と書いてある(笑)。

 独自に調査を進めたところ、その工場が横浜の保土ヶ谷にあるということまで突き止めることができた。

 よりによって、旅先で買ったお土産が、自分の地元の横浜で作られていたんです(笑)。

 そこでは、アメリカに限らず、さまざまな国のお土産を生産し、輸出していたんですよ。

 このエピソード、現在の音楽でいうなら、僕も大好きなVIDEOTAPEMUSICというアーティストに通じる無国籍かつ多国籍な世界観を感じますね。

2019.05.26(日)
構成=下井草 秀(文化デリック)