冬本番、鍋料理の季節がやってきました。鍋料理は自宅でも作ることができるだけに、外食時は専門店ならではの味を楽しみたいもの。食通に愛される「水炊き」「ちゃんこ」「うずら鍋」「あんこう鍋」の名店をご紹介します!
●割烹かりや(東京・両国)
両国の名店で楽しむ
極上ちゃんこ鍋
具沢山の「ちゃんこ鍋」は、明治時代に「出羽海部屋」で生まれた鍋料理。両国界隈には引退した力士が営むちゃんこ鍋のお店がありますが、中でも「割烹かりや」は、出羽海部屋の味を受け継ぐ名店です。
戦後すぐに創業した初代は、出羽海部屋の元力士。「割烹かりや」の料理の基本は、初代が力士時代に作っていた部屋の食事を料理屋風にアレンジしたものです。現在は3代目の刈谷真一郎さんが、赤坂の料亭で修業した腕をふるい、代々伝わる味を守っています。
純和風の店内は、1階には掘りごたつの座敷1室とテーブル席(2卓)、2階には大小5つの個室があり、個室は室料なしで2名から利用可能。個室の壁には往年の横綱の手形の額が飾られ、両国情緒満点です。
ちゃんこ鍋が含まれるコースは6,000円から15,000円まで4種類。一番人気の「ちゃんこAコース」(8,000円、税別)は、ちゃんこ鍋の他に、先附、前菜、土佐造り、ふぐから揚げ、うどん、フルーツが付く全7品です。先附や前菜には「ふぐの煮こごり」や「ふぐの湯引きの酢みそ掛け」などのふぐ料理も登場し、贅沢な気分が盛り上がります。
実は、ふぐ料理はちゃんこ鍋と並ぶ「割烹かりや」の看板料理。13,000円(税別)以上のコースでは、「ふぐ刺し」と「ちゃんこ鍋」の両方が堪能できる構成となっています。
8,000円(税別)以下のコースに登場する「土佐造り」は、カツオまたはメジマグロの刺身に、薬味の葱とみょうがをたっぷりのせたもの。薬味をのせた状態で大皿に盛り合わせるのは、「取り分けやすさ」を考慮した、相撲部屋の食事のスタイルです。
ふぐから揚げの次は、いよいよお待ちかねの「ちゃんこ鍋」。一般に「ちゃんこ鍋」と呼ばれる料理には、水炊き、ソップ炊き、塩炊き、味噌炊きなど、さまざまな種類や味付けがありますが、「割烹かりや」のちゃんこ鍋は醤油味の鶏ソップ炊きです。刈谷さんいわく、「ソップとは、スープの訛り」。材料に鶏を用いる理由は、二本脚の鶏は“手をつかない”という験担ぎからであることなど、尋ねれば色々な蘊蓄も教えてくれます。
3日がかりで作られたソップ(スープ)は、漉して脂を除いているため、コクがありながらもさっぱりした味わい。鶏肉は「脂が酸化すると体によくないから」と、鶏肉問屋から仕入れる新鮮な千葉県産の水郷赤鶏を使用しているそうです。鶏肉以外の具材に関しては、大根とニンジンは“ささがき”にし、豆腐は切るのではなく“すくって”入れるのが「割烹かりや」の伝統的なスタイル。相撲部屋では「まな板なしでも手早く作れる」ことが重視されていたのだそうです。
「ちゃんこ鍋が生まれた背景には、江戸時代末期から明治時代初期にかけて出羽海部屋への入門者が急増し、大勢の力士に対して個別に配膳することが厳しくなったという事情があります。そこで出羽海親方(元横綱常陸山)が“簡単で一度に大量に調理できるように”と考案したのが、ちゃんこ鍋。ですから、手早く調理する伝統が残っているんです」(刈谷さん)
上質な鶏もも肉や野菜、豆腐、白滝などをたっぷり味わった後の〆は、うどんとフルーツ。食後にふと気になった「ちゃんこ」の由来を尋ねると、刈谷さんがこんな話を教えてくれました。
「ちゃんこという名前の由来には諸説ありますが、私がご紹介するのは出羽海親方が“親と子で食べるからちゃんこ”と名付けたという説です。“チャン”は時代劇などで “父”という意味で使われる言葉で、“コ”は子。親方を父になぞらえて“チャン”、弟子を“コ”とし、親方と弟子が一緒に囲む鍋という意味で“ちゃんこ”と名付けられたそうですよ」
そんな由来を聞けば、親方と弟子が鍋を囲んで連帯感を強める風景が目に浮かぶよう。美味しいエピソードまで、ごっつぁんです。
割烹かりや
所在地 東京都墨田区両国1-9-8
電話番号 050-3467-3651
営業時間 ランチ 11:00~14:00/ディナー 17:00~22:00 ※ランチは要予約
定休日 不定休(日曜・祝日は予約のみ。大相撲東京場所中は無休)
席数 60席
2017.12.26(火)
文=小松めぐみ
撮影=釜谷洋史