冬本番、鍋料理の季節がやってきました。鍋料理は自宅でも作ることができるだけに、外食時は専門店ならではの味を楽しみたいもの。食通に愛される「水炊き」「ちゃんこ」「うずら鍋」「あんこう鍋」の名店をご紹介します!
●「新ばし 鮎正」(東京・新橋)
顧客のリクエストで誕生した
鮎の名店の冬の名物「あんこう鍋」
1963年に創業した「新ばし 鮎正」は、島根の郷土料理をベースにした会席料理店。看板料理は鮎料理(6月~)ですが、実は冬の「あんこう鍋」も絶品です。
こちらのあんこう鍋は、一般的な“どぶ汁”や醤油味仕立ての鍋とは異なり、極上のあん肝をたっぷり溶かし込んだ白味噌仕立て。濃厚な肝の味わいと白味噌の優雅な香りが相まった鍋地の中に、おだしの気品が感じられるのが特長です。
ご主人の山根恒貴さんは「料理はだしによって美味しくも不味くもなる」と考えるため、「新ばし 鮎正」ではおだしの素材にも選りすぐりのものが使われています。
毎日取り寄せる血合い抜き鰹節とメジ節(鰹節よりワンランク上の鮪節)は、削りたてをその日のうちに使い切るのが山根さんの主義。さらに「鰹節には個体差があるため、酸味や渋味が強い節しか届かない時もあります。そういう場合はお店に保管している本枯節を削って使います」というほど、細心の注意が払われています。
そんな上等なおだしに仙台味噌と白味噌、自家製のあん肝ペーストを溶かして作られるのが、「あんこう鍋」です。11月から3月の期間は、単品(6,000円)でも会席コース(13,000円/2名より)でも楽しむことができます。
運が良ければ楽しめる逸品
分厚い「あん肝ポン酢」
「あんこう鍋入り会席コース」の基本の内容は、お造りや島根産浜田ガレイの一夜干し、白子の天ぷらなどの5品+あんこう鍋です。この中には含まれませんが、分厚い「あん肝ポン酢」は、運が良ければ楽しめる逸品。蒸したてのあん肝はふわりと柔らかく、深いコクがありながらもさっぱりした味わいです。
一尾6~7キロの「金印」と呼ばれる大きさの青森産のあんこうは肝臓が大きく、美味しいあん肝ができるそうですが、青森産なら必ず大きな肝臓が入っているというわけでもなく、「捌いてみて大きかったらラッキー」という世界。
しかも山根さんが「あん肝ポン酢」を作るのは、大きな肝臓が入っている時だけ。「1日経つと酸化してクセが出るので蒸した当日しか出さない」という品なので、その日にあるかは運次第、というわけです。
あん肝をたっぷり溶かし込んだ鍋のスープ
さて、あんこう鍋のお値段の半分以上は、たっぷり溶かし込まれたあん肝代。どのくらいの多さかといえば、青森産の活あんこうの肝臓だけでは十分な量のあん肝を作れないため、鍋に溶かすためだけに山口や島根産のあんこうの肝臓も仕入れているほどです。
「肝臓に含まれる脂の量は個体ごとに違うため、その都度味をみて美味しいと思える量を鍋に溶かし込む」というのも、山根さんのこだわりです。
作りたてのあん肝同様、鍋の具材の「あんこうの七つ道具」(身、皮、肝、エラ、ヒレ、胃、卵巣)も、臭みは皆無。ゼラチン質が豊富な皮やエラ、ヒレの食感や、あっさりした身の旨み、そして太い背骨のサックリした食感まで、あんこうの魅力を余すことなく満喫できます。
新鮮であっても臭みがあるというあんこう。こちらの料理に全く臭みがないのは、もちろん下処理が丁寧だから。
山根さんいわく、「あんこうの皮や胃袋は、塩で揉んで流水にさらし、水中に血の色が出なくなるまで血を抜きます。それを鍋に入れて水からゆっくり沸かすと泡が出てくるのですが、出ている間は臭みがあります。ですので、沸騰寸前に水を捨てることを5、6度、泡が出なくなるまで繰り返します」。
これだけでも大変な工程ですが、ヒレやエラなどの部位ごとに独自の下処理があるというのですから、気が遠くなりそうです。
とことん手間をかけて作られた「あんこう鍋」の滋味深いスープは、白菜や春菊、焼き葱、お豆腐とも絶妙な相性。ここにごはんを入れればすぐに美味しい雑炊ができそうなものですが、「新ばし 鮎正」では、鍋に残ったスープは捨てられてしまいます。その理由は「鍋に残った汁にご飯を入れるとしつこくなる」ため。改めて澄んだおだしにあん肝と味噌を溶かして作られる雑炊は、雑味が一切なく、凛としてまろやかな味わいです
ご主人の美学が詰まった「あんこう鍋」、ぜひとも冬の間にお試しください。
新ばし 鮎正
所在地 東京都港区新橋4-21-14
電話番号 03-3431-7448
営業時間 17:00~22:00、土曜 17:00~21:00
定休日 日曜、祝日(7月「海の日」、8月「山の日」は営業)、第2・第4土曜(11~5月)
席数 1階:カウンター9席+テーブル3卓、2階:個室4室
http://ayumasa.main.jp/
2018.01.23(火)
文=小松めぐみ
撮影=橋本 篤