いまも激しい亀裂が
コンクリートに広がる
熊本市中心部から1時間弱の西原村は、熊本地震で益城町と並んでもっとも被害を受けた地域。震度7を観測し、8人が犠牲になっている。
自動車の修理工場を営む久保田誠さんはもともとジャズが好きで、工場の倉庫に大きなスピーカーを設置、爆音で楽しんでいたのが、いつのまにか地元のジャズ仲間が集まって、倉庫をライブハウスがわりにプレイするようになっていたそう。
また地震の前から西原村を含む南阿蘇は、東日本大震災をきっかけに移住してきたひとなど、外から移り住むひとたちが多い地域でもあった。温暖な気候はもちろん、農業や製造業などで平成27年度に「日本一競争力の強い村」と内閣府の経済指標ランキングで評価された活力が、外部からの移住者を受け入れやすいオープンな気風を育んできたのかもしれない。
移住組にはアーティストやミュージシャン、エコロジーに関心のあるひとたちが多かったし、「久保田さんはアーティストのことをよくわかってくれる」と評判にもなって、久保田自動車の倉庫ライブハウス「くぼたくんち」は、いつのまにか「阿蘇のミュージシャンの隠れ聖地」と呼ばれるようになっていたという。
熊本大地震は久保田自動車も直撃。ライブハウスのレコード棚、本棚などが倒壊、工場は歪んでしまったし、停電や断水も続き、ライブどころではない状況に。しかし地元はもちろん全国から「くぼたくんち」でプレイしたミュージシャンたちが駆けつけ、片付けや補修を手伝ってくれたのが「涙が出るほどうれしかった」という久保田さんと妻の和美さんは、大きな被害にもかかわらず震災から半年後には早くもライブを再開する。地震による全壊家屋500棟以上、まだ避難所や仮設住宅に住まなくてはならなかった村人がたくさんいた時点で、それはどんなにみんなの気持ちを潤してくれたことだろう。
のどかな西原の村道に面した久保田自動車は一見、ほんとに普通の自動車工場。でも敷地内に足を踏み入れ地面を見てみると、いまも激しい亀裂がコンクリートに広がっていて、地震の激しさを物語っている。
2017.12.12(火)
文・撮影=都築響一