するめ基金使い途のご報告
 文=村上春樹

CREA2015年9月号より。2015年6月に立ち寄った大観峰。阿蘇の山々を一望できる。photographs:Kyoichi Tsuzuki

 熊本地震の被害にあった方々を少しでも援助したいという趣旨で始めた「するめ基金」も昨年中でいちおう募金の区切りをつけ、お金箱を開いて厳正に計算したところ、13,514,840円貯まっていたことがわかりました。全国のみなさん、温かい志をどうもありがとうございました。深く感謝します。

 さて、みんなで一堂に会して、集まった使い途をあれこれ考えてみたのですが、するめクラブの三人の希望を聞いてみたところ、

(1) 動物好きの、そして動物園マニアの吉本由美さんからは「熊本市動植物園がかなり深刻な被害を受けており、まだ全面的に再開できない状態にある。その支援をできないものか」という意見が出ました。

(2) 若者の自由で野放図な手造りパワーを応援したいという都築響一さんからは、「熊本県民を盛り上げるための、元気なイヴェントの後援をできないだろうか」という意見が出ました。

(3) 小説家である僕(村上)の希望は「熊本市内にまだ四軒ばかり保存されている、夏目漱石の住んでいた住居が、地震によってそれぞれに被害を受けているので、その復旧資金にあてられないだろうか」というものです。漱石の住居が四軒もそのまま残っている街なんて他にないですからね。貴重な遺産です。

CREA2016年12月号より。イベントの折には、熊本城や復興最中の市内、2015年に立ち寄った場所を再訪。

 三人三様というか、それぞれに向いている方向が違うものですね。しかしいずれにせよ、集まったお金はどこかにひょいと丸投げするのではなく、その使い途は我々三人に個人的に任せていただく(逆にいえば、それぞれが使途に責任を持つ)というのがこの基金のそもそものあり方ですので、三人の希望に沿って、ものごとを進めることになりました。その結果、

(1) 吉本さんから熊本市に、動物園復興のための資金(目的限定)として500万円を寄付する。吉本さんはそのために先日、熊本市長と直接会って、きちんと話をつけてくれました。うん、とても話のわかる市長さんだったよ、と吉本さんは言っておられました。

(2) 適当なイヴェントが今のところ見当たらないので、都築響一さんはこの夏に熊本でイヴェントを催したいという個人あるいはグループを募っております。そういう予定のある方はクレア編集部までお申し出ください。審査をおこない、その規模に応じて必要な補助をすることができればと思います。できるだけ面白いものがいいなあということでした。

(3) 漱石住居の四軒のうち、三軒は熊本市が管理をしているので、市を通して復旧援助が可能であることが判明しました(古い家なので、それぞれにダメージを受けています)。しかし僕がクレアの取材で訪れた「第六の旧居 北千反畑町の家」は個人所有の住宅であるために、寄付をすると贈与税が発生することがわかりました(面倒ですね)。せっかくみなさんのお志として預かったお金なので、お国の懐を潤すよりは、少しでも熊本のみなさんのお役に立たせたいというのが、我々の本意です。どうすればいいか、みんなでない知恵を絞って考えております。

 とまあ、すべてが細かいところまで確定したわけではありませんが、おおむねのところ、集まった浄財は熊本復興の一助となるべく、適正にそれぞれのルートを辿っております。もし何かご意見があれば、クレア編集部までお寄せください。ご協力ありがとうございました。

 そろそろ春も近づいております。熊本のみなさんも、どうかがんばってください。お城がはやく元通りになるといいですね。

2017.03.07(火)
文=村上春樹、吉本由美、都築響一
撮影=都築響一、平松市聖

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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