【BL短篇集は作家性の玉手箱だ。】

 短篇マンガが描かれる背景は、編集者が新人作家をフックアップしたいので読み切りを描かせて読者の反応を見る、あるいは雑誌の目玉にしたくて人気作家を短篇でいいからと口説いて描いてもらうなどいろいろです。

 BLは少し特殊で“メガネ男子特集”などと特集主義で編纂される雑誌の場合、全作が読み切りになります。ところで短篇マンガで困る点は、単行本になりにくいこと。まず総ページ数が単行本1冊分に達するのが条件で、出版社を跨いで発表された作品は権利関係を整理して1社にまとめる必要があります。そんな条件をクリアして発刊された短篇集は読者にとって宝物。

萩尾望都オマージュが新鮮
バンパネラの数百年越しの恋

 最新の“宝物”といえば、CREA連載「R先生のおやつ」でお馴染みの雲田はるこさんの『ばらの森にいた頃』です。表題作は吸血鬼BLで年を取らない吸血鬼と転生を繰り返す恋人の純愛ストーリー。

 雲田さんが作中でバンパイアではなく敢えて“バンパネラ”と表記したのは、少年吸血鬼を主人公にした萩尾望都さんの不朽の名作『ポーの一族』へのオマージュです。バンパネラの主食はばらの花という、ときめき設定はそのまま活かし、そこに日本でばら園を営んで自給自足で暮らしているという、そこはかとないおかし味を添加するこのセンス! 少女マンガファンにこそ嚙み締めてほしい。

 またバンパネラの食卓に登場する料理もつぼみの浅漬け、生ばら春巻きなど垂涎のマンガ飯が並びます。そして平和な日常が思わぬ結末へ反転し、人ならざるものへの畏怖という深い余韻を残す終幕もみごとのひと言。同時収録の3作も作者の振り幅の広さを感じさせて読み応え抜群。

『ばらの森にいた頃』(全1巻) 雲田はるこ

『昭和元禄落語心中』で、第21回手塚治虫文化賞・新生賞受賞の作者による待望のBL短篇集。出版社を跨いだ収録の4作は少年×吸血鬼、俳優同士、ヤンキー男子高生たち、会社員×美脚後輩と多様なカップリングが魅力的。オマケの番外篇入り。
祥伝社 650円
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福田里香(ふくだりか)
お菓子研究家。CREAで「R先生のおやつ」も連載中。『まんがキッチン おかわり』(太田出版)と文庫版『まんがキッチン』(文春文庫)が好評発売中。

Column

BLマンガ基礎講座

BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!

2017.10.05(木)
文=福田里香

CREA 2017年10月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

リラックスするための美容。

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定価780円