【BL未満の関係も尊い。】

 ひとは一種名状しがたい事象に惹かれるものではないでしょうか。物語とは、ソレを指し示す“そのものズバリの言葉”がない状況や状態、感情、関係などを、なんとか外堀を埋めるように浮かび上がらせるために作り出されたシステムなのだと思います。

 よく愛だの恋だの友情だのと言い切りますが、実はこれらはもっと曖昧模糊とした切れ目のない感覚ですよね。わかりやすく直接的な感情や大胆に性愛を描いた作品も素晴らしいですが、明らかな性愛の対象というよりは、ブロマンス的というか、男同士の極めて近しい関係を緻密に描いた作品も素敵です。BL用語で言うところの匂い系からBL入門してみませんか?

男子の出会いは十人十色
この感情に名前はまだない

 匂い系とは男同士の恋愛を描いているわけではないが、読者が行間を妄想読みするとそうとも取れる作品のことで、たとえば、つゆきゆるこさんの『ストレンジ』なんかいかがでしょうか? 本書は表題作のSTRANGEをはじめ、異なる6組の男子2人の出会いを描いた短篇集で、厳密に言えばBLではないのかもしれません。だがそこがいい。

 STRANGEは深夜の公園が舞台。冒頭にオデコちゃんと呼ばれる男子高生の「彼はゲイで僕の不思議な友達だ」というモノローグがある。“彼”とはオデコちゃんがクマさんと呼ぶ年上の友人で、女装バーで働くガチムチ系の女装男子。クマさんこと熊田さんは女装を解けば格好良い大人の男性で、進路に迷うオデコちゃんを小田原に自転車ツーリングに誘ったりしてくれる。

 2人の関係は馬が合うという範囲を出ないけど、むしろそれが心地よい。そうそう、こんな2人が読みたかったんです。

『ストレンジ』(全1巻) つゆきゆるこ

6組の出会いを収録したデビュー作。CONNECTはゲームが取り持つロンゲ&眼鏡くん。BRIGHTはハワイで出会ったガイド&オジサン。FRIENDはクラスの腫れ物&読書家高校生。PRETTY! は動物大好き先生&生徒。MOVEは伯父&甥。
リイド社 670円
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福田里香(ふくだりか)
お菓子研究家。CREAで「R先生のおやつ」も連載中。『まんがキッチン おかわり』(太田出版)と文庫版『まんがキッチン』(文春文庫)が好評発売中。

Column

BLマンガ基礎講座

BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!

2017.09.04(月)
文=福田里香

CREA 2017年9月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

本と音楽とコーヒー。

CREA 2017年9月号

100人の、人生を豊かにする1冊、1曲、1杯
本と音楽とコーヒー。

定価780円