音楽と出会った街、横浜

「小学生6年生のとき兄の影響でギターに興味を持って、曲を作り、歌うことに夢中になりました。その頃から、今とやっていることって変わっていないんですよね」

 類まれな表現力と、人の心根をゆさぶる印象的な楽曲の数々――シンガーソングライター・秦 基博は、そう言うと柔和な表情で自分が育ってきた場所に想いを馳せた。

2016年11月9日(水)クリスマスツリー点灯式で秦のスペシャルライブが行われた。

 宮崎県で生まれ、小学校2年のとき親の仕事の都合で横浜市青葉区に引っ越すこととなり、以来、市北部にある緑の多い閑静な住宅街で学生時代を過ごしてきた。秦はこの地で音楽と出会い、寄り添っていくことになる。

「これまで作ってきた曲の中に現れる景色や纏う空気感といったことを考えると、僕が横浜の郊外で育ったことの影響は多分にあると思います。“肌感”とでも言うのでしょうか、そういったものが楽曲の中に確実にありますね」

 18歳になると秦は中区山下町にあるライヴハウス「F.A.D YOKOHAMA」に出演するようになり、ミュージシャンとしての第一歩を記すことになる。

「人前で演奏する楽しさや緊張感を知って、ますます音楽にのめり込んでいきました。F.A.Dは横浜中華街にあったので、リハーサルが終わると山下公園やイチョウ並木をふらっと歩いたりしていました。今でもあの辺に行くと、いわゆる“青春時代”を思い出します。郊外の街とは違う、横浜の中心で、色んな人たちと出会い、モノを考え、刺激され、ときには反発もしてきました。甘酸っぱい思い出だけれど、あの頃があるからこそ今の自分がいるんです」

「横浜音祭り2016」には多くの市民が参加し、イベントを盛り上げた。

 2016年9月22日(木・祝)から11月27日(日)まで3年に1度の音楽フェスティバル「横浜音祭り2016」が開催された。期間中は横浜市全域で、クラシック、ジャズ、ポップス、日本伝統音楽などジャンルを問わず、国内外のアーティストの演奏など、453もの音楽イベントが実施された。

 自分が育った横浜でこのようなイベントが開催されたことについて秦は「ミュージシャンとしてすごく嬉しい」と語る。

「今のような情報社会では音楽に限らずいろいろなモノと出会うチャンスが溢れていて、選択することがすごく難しい世の中だと思うんです。だけどこの『横浜音祭り』では、好きな音楽を聴くために横浜に来る人だけではなく、たまたま横浜に来たら素敵な音楽に出会えた、というケースも起こり得る。それってすごく素晴らしいことだと思うし、音楽をより開けたカタチで人々へ届けることのできる有意義な場所だと思うんです。ですからきっと開催中は、横浜在住の人はもちろん、横浜に訪れた多くの人が、良い音楽に触れ、楽しむことができたのではないでしょうか」

2016.12.14(水)
文=石塚 隆
撮影(音祭り)=大野隆介