インタビュー前篇では、女方という芸の奥深さに直面し、偉大な先輩との共演を通して自らの現在地を見つめた経験を語ってくれた尾上左近さん。一昨年9月から休みなく舞台が続くなか、「新春浅草歌舞伎」上演中に20歳の誕生日を迎え、5月には三代目辰之助を襲名という節目を迎えます。多忙な日々から垣間見えたのは歌舞伎界の温かなふれあい。さまざまな支えを得ていま胸の内にある覚悟とこれから目指す芸のかたちを左近さんが語ります。
リアルな心情表現、陰のある役も好き
――『仮名手本忠臣蔵』の七段目で大星力弥を勤められたのは昨年3月、力弥は史実の大石主税に相当する人物です。お父様である尾上松緑さん企画による講談をもとにした新作『荒川十太夫』(2022年10月)で主税を演じていますね。
すっぽん(花道の舞台よりに位置するせり)から出て花道を引っ込むだけの1分くらいの出番でした。その短い時間でどういう人物なのかお客様にわかっていただかなければなりません。それにはバックボーンを知らないといけないと思い、四十七士のお墓のある泉岳寺にお参りに行ったり自分でいろいろ調べたりしました。そして舞台での何十秒というわずかな時間、主税はどんな思いだったのだろうと考えていきました。役の性根というものを深く考えるきっかけになった役です。
――忠臣蔵外伝、つまり忠臣蔵のスピンオフ作品で、とても人情味あふれる物語でした。好評を得て再演され、講談シリーズは『俵星玄蕃』、『無筆の出世』と続き、そのすべてに出演されていますね。
演出の西森英行さんは歌舞伎だけではなくいろいろな舞台を手がけられている方。リアルなお芝居もやってみたいという思いはずっとありましたので、その演出を受けられたのはものすごく勉強になりました。
――リアルなお芝居に興味を抱いたきっかけのようなものはありますか?
祖父(初代辰之助=三世松緑を追贈)の映像です。『暗闇の丑松』の丑松とか(『名月八幡祭』の)縮屋新助とか、陰のある役に憧れます。
――昨年12月に坂東玉三郎さん演出で上演された『火の鳥』で、実はドキッとしたことがありました。左近さん演じるウミヒコが火の鳥に出会った後に花道を引っ込む場面で、突如、初代辰之助さんの姿が目に浮かんだんです。思いがけないことでした。
花道をよろけながら引っ込む演技というと、やはり自分のなかで深く印象に残っているのは祖父の丑松なんです。だからそれをちょっと意識してはいました。
――そうだったのですか。
『火の鳥』のウミヒコのように、あそこまで人物の気持ちをリアルに全面に出せる役というのは初めての経験でした。自分がお客様にどう見えていたのかはわかりませんけれども、玉三郎のおにいさんが求めてくださっている人物に少しでも近づけたらという思いでいっぱいでした。
