聞こえてきた子どもたちの歌声
なんなんだ、あの女……もしかして、あの日のエレベーターのことが原因で嫌がらせでもしているのか? ――次第にAさんの中に怒りがこみ上げてきました。
ある日の夜、Aさんが仕事から帰って廊下を歩いていると、隣の部屋のドアがまた半開きになっているのが目に入りました。
一瞬身構えたそうですが、ゆっくりと近づくにつれてAさんの警戒心は恐怖に変わったそうです。
「子どもの歌声……合唱コンクールで歌うみたいな声がさ、結構デカイ音でその部屋から聞こえてきたんだ」
その音は部屋の奥から近づいてくるようでした。
あの女がラジカセでも持ってドアから出てこようとしているのではないか――おぞましい想像が頭をよぎり、Aさんは全速力で自室に入って鍵を閉めると、着の身着のままベッドに潜り込んだそうです。
隣の部屋からはぼんやりと合唱の声が聞こえ続け、気がつくと朝になっていました。
恐る恐る廊下に出て隣を見ると、ドアは閉まっていたそうです。
「だからさ、今度はこっちが騒いで圧かけてやろうかなって」
「……正気ですか? 刺されちゃうんじゃないっすか、そんなことしたら」
フッと鼻息を鳴らして笑ったAさんは、今思い返すと気を病み始めていたのかもしれません。










