「私が支えてあげないと」18歳上の八雲に惹かれたセツ

 セツは住み込みの世話係として、ともすれば妾の覚悟さえもって、八雲の暮らす家にやってきたのでしょう。

 彼女を取り囲む厳しい境遇は、八雲には母ローザの後ろ姿と重なって見えたのだと思います。当時の国際結婚へのハードルもあり、法的な手続きを完了するのは5年後になりますが、セツと八雲は出会ってほどなく、現代風に言えば、事実婚の状態になりました。

 外国人の男性というと、大柄で筋骨隆々、といった逞しいイメージを抱きがちです。でも八雲は背格好もセツとさほど変わらないほど小柄です。声も女性のように優しい人でした。

 ただ、感覚がひときわ鋭敏な人です。しかも思い込んだら一歩も譲らない頑固者です。執筆に夢中になると我を忘れ、コーヒーに塩を入れてしまうような、あぶなっかしいところがありました。私が支えてあげないと、と感じさせるところがあったのでしょう。18歳年下のセツでしたが、どこか母親のようなまなざしを向けていました。