幼少期の孤独や固定観念へのカウンター。アンの思いを背負った生き物たち
アンはラジオが流れる部屋で、作品を抱きながら、手作業によって残布に新たな命を吹き込む。1つにつき、丸2~3日はかかる。
「綿などの緩衝材をぎっしり詰めると、手で力を加えることでパーツが形状記憶されるほどの硬さが出ます。私の作品のシグネチャーである表出したステッチは、パーツの形をキープするために縫った跡で、全てに役割があります。また、動物に人間の表情を融合するのも、こだわりです」
モチーフには、動物や神話に出てくる空想上の生き物、人物など幅広い生き物が選ばれる。「何を作るかは気分次第」で、時には自由に動物のパーツを融合してハイブリットな生き物を作ることもあるという。今回のベアブリックの新作コレクションでも、ベースであるベアブリックの耳と、ほかの動物の要素が掛け合わさっているものがちらほら。
また、アーティストとして生きる中で感じてきた、ジェンダーの歪みを作品に取り入れて表現することも。
「美術史を学ぶと、名前が残るのは男性ばかりであることに気づきます。現代でも、女性アーティストとして活動する中で、社会は女性に対してフェアではないように感じる場面があります。その不均衡を作品の中で見せたく、男性的なモチーフを女性的なイメージの家庭的な手仕事で表現しています。
例えば、動物の頭を記念品として飾ることを目的とする狩り、トロフィーハンティングの文化。父も狩人だったので、歴史や文化は理解していますが、自分の部屋に欲しいと思いません。そのコンセプトを取り入れたシリーズがあります。また、彫刻の世界では、偉人を格好良く作る歴史がありますが、彫刻家もモチーフも男性ばかりであることに疑問を持ちます。私は男性の石膏の胸像をモチーフにした布製の作品群も作っています。男性的なテーマをあえて女性らしい手法やテイストで作るのも、私のスタイルです。」
「日本には、アートトイが受け入れられる土壌がある」
これまでにアンダーカバーやY’s、ケンゾーなどと協業しており、何かと日本に縁があるアン。
「『アンダーカバー』の2004-05年秋冬コレクションでコラボレーションをしたことが全ての始まりでした。デザイナーの高橋盾さんは、私の世界観をリスペクトしてくださっていて、のびのびとやらせてくれました。日本のクリエイターと初めて一緒に仕事をしたのも、その時」
同コレクションはアンダーカバーのファンの中で今も人気があり、名コレクションの一つと数えられる。2025-26年秋冬ウィメンズコレクションでは、ブランド創立35周年を記念して、約20年ぶりの協業が実現した。最初の協業を機に日本国内での知名度も上がり、今では日本にギャラリストもいる。
「日本のギャラリストは『アンさんは、半分日本人』だと言います。私のシャイで子どもの遊び心を残すキャラクターがそう思わせるのでしょうか。フランスではアートトイのジャンルがあまり広がっておらず、日本でのほうが私の作風がアートとして理解されているように感じます」
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- 取材・文=福永千裕
写真=橋本 篤 - keyword










