離婚して最強になったヒロイン
また離婚という苦難を経て、大きな成長を遂げるヒロインもいた。『スカーレット』(2019年度後期)の喜美子(戸田恵梨香)は陶芸家人生を賭けた穴窯のために家庭を犠牲にし、堅実派の夫・八郎(松下洸平)から離婚を切り出される。このエピソード、一昔前の朝ドラなら男女が逆だっただろう。喜美子は父との別れ、夫との別れ、そして最愛の息子との別れという苦しみを経て、己のすべてを土に込め、自分だけの陶芸を極めていく。最終回では、夫婦というかたちではなくなったものの、喜美子と八郎の新しい関係性、違うかたちのパートナーシップを予感させた。
『おちょやん』(2020年度後期)の千代(杉咲花)もまた、悲しみも苦しみも自身の女優道の糧にするヒロインだった。子どものころから苦労続きで、同じく親に捨てられた一平(成田凌)と運命的に夫婦となるが、ふたりが子を授かることはなかった。挙句、一平が浮気をして他所に子を作り、離婚する。
史実では相当に壮絶な結婚生活であったにもかかわらず、ヒロインの夫のモデルの不義不貞についてはほとんどの作品がマイルドに加工する中、『おちょやん』は最も史実に迫った朝ドラと言える。「おもしろうてやがて悲しき」夫婦道が終わり、地獄の苦しみを経た千代は役者という生業を通じて「日本のお母ちゃん」へと進化した。
2020年代、多種多様な夫婦のかたち
現代劇である『舞いあがれ!』(2022年度後期)と『おむすび』(2024年度後期)の夫婦は当たり前に共働きで、ヒロインの夫も当たり前に家事育児に積極的に参加している。こんなところにも「朝ドラと夫婦の歴史」の変遷が見てとれて、感慨深い。
『らんまん』(2023年度前期)は植物の研究に生涯を捧げた万太郎(神木隆之介)の物語で、体裁としては単独主人公の朝ドラだ。しかしこの作品は、万太郎と寿恵子(浜辺美波)の夫婦道を描いた作品として観ることもできる。
植物に関しては天賦の才を持つが、他のことに関してはポンコツの万太郎。そんな彼を気丈に励まし続けながら、寿恵子は料亭で働いたり待合茶屋を営んだりして夫の研究資金を作る。こうして文字に起こしてみると「内助の功の物語」と思われがちだ。しかし寿恵子はそれを「冒険」と呼んだ。かつてエリー(シャーロット・ケイト・フォックス)も「Life is an adventure(人生は冒険)」と繰り返していたように、『マッサン』以降の「著名人の妻」は単に夫を陰で支えるのではなく「自分の人生を伴侶に全ベットしたのだ」「だから私もいっしょに人生を楽しむ」という能動的なスタンスで描かれている。
さて、『ばけばけ』のトキはヘブンと共に、これからどんな「冒険」をしていくのだろうか。ふたりの共同作業で描く人生絵巻がどのように仕上がるのか、楽しみに待ちたい。
