朝ドラ初の医療ドラマ『ええにょぼ』(1993年度前期)では、ヒロインで医師の悠希(戸田菜穂)は同業者と結婚するが、無医地区である故郷の京都・伊根町への赴任が決まり、別居婚の道を選ぶ。

 『ひまわり』(1996年度前期)のヒロイン・のぞみ(松嶋菜々子)は会社員を辞めて弁護士を目指すが、学生時代から交際していた恋人から「結婚か弁護士か」の選択を迫られ、迷いながらも自分の志を貫く。やがて司法試験に合格したのぞみは切願であった少年事件に取り組むべく、司法研修所で同期だった星野(上川隆也)と共に法律事務所を開業。ふたりは公私共にパートナーになっていく。

 90年代の朝ドラで描かれた夫婦は「夫唱婦随」ではなく、同じ夢を志す同志・パートナーという意味合いが強くなっていった。結婚後、自立も自己実現もキャリアも(場合によっては子育ても)実現させていくという、貪欲なヒロインが数多く見られた。しかしこうしたヒロイン像は、多くの視聴者にとって「絵に描いた餅」に他ならなかった。

仕事と家庭の両立の厳しさ――現実路線を貫いた『ふたりっ子』

 そんな中、『ふたりっ子』(1996年度後期)は現実路線を貫いている。Wヒロインのうちのひとり・香子(岩崎ひろみ)はプロ棋士を志し、共に切磋琢磨してきた棋士の森山(内野聖陽)と結婚し妊娠するが、流産してしまう。厳しいプロフェッショナルの道と家庭の両立の難しさがシビアに描かれ、のちにふたりは離婚。おそらく朝ドラの中で本人の自由意志で離婚したヒロインは『ふたりっ子』の香子が初めてではないだろうか。

 一方、香子の双子の姉・麗子(菊池麻衣子)は学業優秀でキャリア志向。大企業を退社後、自ら事業を起こす。しかし事業は失敗に終わる。その後、麗子は、彼女への愛一筋の夫・政夫(伊原剛志)と結婚して双子を授かる。子育てをしながら婚家が営む理髪店を切り盛りし、「大阪のオカン」として生きていく麗子。平成の世を悩みながら生きていくふたりの女性の対照的な人生を、双子の香子と麗子で描き分けた、意欲的な朝ドラだった。

「キャリアか結婚か」の選択がますます迫られた00年代

 2000年代のトップを飾った『私の青空』(2000年度前期)は、朝ドラで初めてシングルマザーの奮闘を描いた。夫との死別などでやむなくひとりで働きながら子育てをするヒロインは数多くいたが、最初から主人公が未婚のシングルマザーであるのは本作のみである。ひとりで食事をする「孤食」の問題を扱うなど、時代性をつぶさに映した朝ドラだった。

 また00年代は物語の最初から最後まで結婚しないヒロインも増えた。最終週で「紆余曲折あったがこの人と結ばれるのだろう」と匂わせて終わるパターンも含め、ヒロインが一度も結婚しないまま最終回を迎えた作品は20作中7作と、最多。女性が「キャリアか結婚か」という究極の二択を迫られる時代の厳しさが表れている。

互いに自立した夫婦を描いた『芋たこなんきん』

 そんな00年代にあって特異だったのが『芋たこなんきん』(2006年度後期)だ。小説家の町子(藤山直美)は開業医の健次郎(國村隼)と結婚し、義理の両親と義妹、5人の子どもを含めた10人家族の一員となる。町子の作家活動と、社会の縮図である「家族」の日常を通じて「人間とは何か」「多様性とは何か」を問うた。

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