結果表は図表(7)のようなものでした(一部のみ記載。単位省略)。

 健康診断で「異常」と言われたにもかかわらず、忙しくて放置していたようです。一言でいうと、非常にやせ型のわりに上の血圧が高く、脈拍数も多い。一方で中性脂肪やLDLコレステロールが低いのも特徴です。

 たしかに中性脂肪やLDLコレステロールの数値が低いのは、一般的に「良いこと」のように思えます。しかし、Dさんの場合は違ったのです。

 Dさんは「バセドウ病」でした。

 バセドウ病とは、甲状腺が脳の指令を無視して代謝を上げるホルモンを出しっぱなしにしてしまう病気です。過剰に代謝が上がるので、まるで常に運動しているかのような状態になり、脈拍が速く、汗の量も多く、いつも暑がり、疲れやすくなります。体内のコレステロールも消費されやすくなるので、数値として低くなる傾向があるのです。

 バセドウ病を放置すると「甲状腺クリーゼ」という命に関わるような重篤な病気になることや、心不全や不整脈などを併発することもあります。一刻も早く治療を受けて、甲状腺ホルモンを安定させる必要があります。

若くても「異常」の放置は厳禁

 私が診察した中でも、健康診断で少し気になる結果が出て、詳しく調べてみたら、実は重篤な病気だったという20代~30代の患者さんは意外に多くいます。

 他にも以下のような事例がありました。

・「白血球数の数値が高い」と言われて受診したら、「白血病」だった

・糖尿病だと思って受診したら、インスリン注射が必要な「Ⅰ型糖尿病」だった

・「血圧が高い」と言われて受診したら、「原発性アルドステロン症」だった

・「コレステロール値が高い」ので受診したら、「家族性高コレステロール血症」(心筋梗塞や狭心症を発症する確率が10~20倍も高くなる)だった

 もちろん健康診断で基準値を超えるような異常が出たからといって、二次検査で必ず異常が出るわけではありません。むしろそうでないケースの方が多いでしょう。

 しかし、本来であれば20代~30代は、一番、体が健康的であり、気力も体力も充実している時期であるはずです。

 健康診断の基準値は、中年以降の人も範囲内に入るように少し高めに設定されているものですが、にもかかわらず、20代~30代の若さで異常値が出るということは、それなりにきちんとした理由があるはずです。たとえ、異常の原因が病気ではなく、生活習慣の乱れだったとしても、体にとっては相当重い負担になっているサインであることは間違いありません。ただちに改善すべきです。

 20代~30代の場合は、注意すべき検査を限定せずに、全般的に見て、もし「異常」な項目があれば、放置せずに、一度はきちんと病院で調べるのが良いでしょう。

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