有田焼や伊万里焼などが有名な日本随一のやきものの産地「佐賀県」。やきものと聞くと、皿やコップなどうつわを想像しがちですが、佐賀県には駅名看板やオブジェなど、少し歩けば、あらゆるものにやきものが取り入れられていることがわかります。

 今回参加したのは、やきものでガラスペンをつくる「HIZEN5」のワークショップ。肥前のやきものでできたガラスペンを通じて、佐賀県に点在するやきものの特徴を教えてもらい、職人さんによる「やきものガラスペン」の絵付けの見学をさせてもらったり、現地を知り尽くした佐賀県文化・観光局員によるやきものの楽しみ方やおすすめスポットを教えてもらいました。

» 「今までにない物を」想いを託され誕生したガラスペン
» ミリ単位で調整。息が止まるほど緻密な絵付けを見学
» 伝統模様からレトロな水玉まで!肥前やきもの5産地の特徴
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「今までにない物を」想いを託され誕生したガラスペン

 HIZEN5(ヒゼンファイブ)は、かつて肥前国と呼ばれていた唐津市・伊万里市・武雄市・嬉野市・有田町の5つの「やきもの」の産地と佐賀県が立ち上げたカジュアルブランドです。 

 佐賀県・有田の地に 日本で初めて磁器が誕生したのは1616年。それから400年を超える歴史を経て今に至ります。今、日本の伝統工芸は「後継者問題」「原料や燃料の高騰」など多岐にわたる課題を抱えていますが、佐賀県のやきものも然り。多様化するライフスタイルにフィットしたブランディングを模索していた中、2016年に「肥前やきもの園」が日本遺産に認定されたことをきっかけに、HIZEN5が誕生しました。

 HIZEN5地域プロデューサーの辻 諭さんは「やきもので新しいことをしたい」との想いで、これまではやきもののアクセサリーやファブリックを作っていました。現在は工芸と文具を掛け合わせたガラスペンに特化して活動の幅を広げています。

 肥前は日本屈指のやきものの産地ですが、歴史のある各窯元を束ねようとする試みは初めてだったといいます。

「それぞれ窯元の技法が違うので価格帯も違います。さらに、それぞれの窯元は横のつながりがほとんどなかった状態からはじまりました。新しいデザインや取り組みに積極的な窯元さんに『今までにない物を作りたい』と説得して、やきもの文化を日常に取り入れられる“やきもの文具”を生み出しました」

 やきものガラスペンは、柄の部分がやきものになっているのが特徴的で、何百年と培われてきた伝統美が凝縮されています。こういったやきもの文具は世界的に見ても他になく、特別なギフトとして重宝しそうです。また、大きくて持ち運びが難しい器よりもスマートな手土産となります。

ミリ単位で調整。息が止まるほど緻密な絵付けを見学

 ワークショップでは、有田焼の窯元「文翔窯」の森田 文一郎さんによる絵付けの様子を見学しました。森田さんは、うつわ以外のものをテーマに、インテリア、文房具、生活雑貨品を焼き物で製作しているやきもの職人。今回の絵付けの主役となるのは、有田焼「福珠窯」でつくられたやきものペンです。

 やきものに描かれている細かな絵は、水性ペンの下書きの上から丁寧に絵付けをしていきます。茶色の絵付けが、焼くと青くなるというのも驚きですが、均一な太さで丁寧に描く、その繊細な作業を間近で見ていると、こちらまで息を止めたくなってしまうほど。

 絵付けの色は、釉薬の混ぜる鉱物や溶かし方により色や濃度が変わります。やきもの本体も、ツヤのある風合いやマットで素朴な肌触りに仕上げるために素材や窯での焼き方を変え、ベストなバランスを見極めながら1つのやきものを完成させていきます。

 焼く過程でやきものが小さくなるというのも、実際に目で見て実感できました。土の硬さややきものの長さ、幅により、縮む加減がそれぞれ違うのだそう。

 特に細長いガラスペンは、途中で折れてしまったり、曲がることが多々あるといいます。また、ミリ単位で調整しないと、ペン先がうまく結合しない難しさも。

「細い物って窯の中で1300度くらいになると、水飴くらいに柔らかくなるんですよ。その過程で倒れてしまったり真っすぐ焼いていても曲がってしまったり……。ロスも多いんです」と森田さん。

 そんな工程を経て、折れず、曲がらずに生き残ったガラスペンのやきものは、ため息が出るほど尊く見えます。

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