カメレオンのような演技力とアニキっぽい率直な言動
2015年も年の瀬だというのに、10月の話をしてすみません。いきなりあやまっておきます。
さて、アジア最大の映画のおまつり、釜山国際映画祭に行ってきたのは10月のはじめのこと。今年で20回目を迎える釜山では、チョン・ウソン、ファン・ジョンミンはじめ韓流スターはもとより多彩なゲストが来てイベントが催されていたが(審査員がナスターシャ・キンスキーだったり、ハーヴェイ・カイテルやジョニー・トーのイベントがあったり、日本からも佐藤健、長澤まさみ、中島裕翔、菅田将暉ら多くのゲストが参加)、今回おそらく一番人気だったのが、韓国の人気俳優ユ・アイン。2015年10月3日に行われた映画祭名物企画のオープントークでは大観衆が集まり、「オッパ、サランへヨ!(アニキ、愛してる)」の嵐だった。
オープントークは釜山の熱海海岸こと海雲台ビーチの特設ステージで行われ、誰でも見られるシステムなのだが、2000人はいるかという黒山のひとだかり。なにせ、ユ・アインは、2015年末現在、日本でも公開中の痛快アクション『ベテラン』が韓国でこの夏記録的な大ヒット、続いて秋には悲運の王子を演じた歴史ドラマ『思悼(サド)』も大ヒットし、両作あわせて2000万人以上を動員した、2015年の顔と言うべきスターなのだ。
とはいえ、現在29歳のユ・アインは、飛び抜けた美男子というわけではない。しかし、極悪非道な悪役から繊細な年下のピアニストまで、カメレオンのように役になりきってしまう演技力と、アニキっぽい率直な言動で人気となった。また『ベテラン』ではファン・ジョンミン、『思悼(サド)』ではソン・ガンホという韓国を代表する演技派と共演して一歩もひけをとらない演技を見せ、11月の青龍賞(韓国でもっとも権威ある映画賞)では主演男優賞を獲得。人気、実力ともに若手トップとなった。
この日のトークでも、「みなさん、本物の僕はそれほどイケメンじゃないでしょう? 他の俳優さんに比べたら」と自虐ネタをぶちこんでいた。これにはお約束でファンからは「そんなことなーい、かっこいい!」の大合唱だったが、「わかりました。かっこいいってことにしましょう(笑)。でもそれよりも、役によっていろいろな顔を見せるところが好きだ、とみなさんが思ってくれたらいいですね」と自ら語ったとおり、この一年でユ・アインが演じた役柄はどれもまったく違う。
2015.12.29(火)
文・撮影=石津文子