妻夫木聡が台湾武侠アクションで熱演!
カンヌの上映作は、メジャー作品をのぞくと日本では半年から1年後の公開ということがいまだ多い。2014年のパルムドール受賞作『雪の轍』(Winter Sleep)も2015年6月から日本公開されているし、2015年の受賞作『ディーパン』(ジャック・オディアール監督)も2016年公開予定。
どうしてもアジアやヨーロッパのいわゆるアート系映画は日本で浸透させるのに時間がかかることと、そうした作品を上映する映画館が減っていることが要因なのだが、2015年は比較的早く見られる作品も多い。
まず台湾の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督が監督賞を受賞した『黒衣の刺客』は、9月に日本公開が決まっている。同作に出演している妻夫木聡もカンヌで初めてのレッドカーペットを歩いて、感激の面持ちだった。
武侠アクション(日本的にいうとチャンバラ時代劇)である同作ではスー・チー演じる女刺客インニャンと、彼女の元許嫁で今は暗殺の標的となってしまった暴君にチャン・チェン、そしてインニャンを救う日本人青年として妻夫木くんが出演している。
実は私がカンヌで観たバージョンは、日本での上映バージョンと少し編集が違っていた。多くの作品はカンヌ出品に間に合わせるべく突貫で完成させるため、編集がぎりぎりで、その後の劇場版では再編集されることも少なくない。今回も日本からやってきたらしい妻夫木くんの背景がまったくカンヌ・バージョンでは描かれていなかった。日本版はそこが復活しているので、わかりやすくなっている。
復活したのは、遣唐使である彼が日本に妻(忽那汐里)を残してきた回想シーン。カンヌ版でカットした理由について、「『妻夫木くんに妻がいるという設定では、スー・チーさんがかわいそうすぎる!』と女性スタッフの反対にあってね」と侯孝賢は笑っていた。妻夫木くんも「もっとセリフもしゃべっていたんですよ」と苦笑い。カンヌ版は妻夫木くんのみならず、スー・チーもほとんど話さない、とても静かなバージョンだったのだ。
侯孝賢監督はかつて台湾語を話せない香港人のトニー・レオンを『悲情城市』に起用したとき、耳が聞こえない設定にしたことがあるけれど、今回はそういうわけではなく、みんな静かなのだ。チャンバラ時代劇だけど、静か。しゃべってるのは暴君のチャン・チェンだけだが、名撮影監督リー・ピンビンの映像は風が見えるんじゃないかというほど美しい。
2015.08.17(月)
文・撮影=石津文子