セルフィーの蔓延は映画祭の品位を落とすか

カトリーヌ・ドヌーヴ(中央)は、風刺週刊紙「シャルリー・エブド」でどすこいぶりを茶化されたことは笑い飛ばしたが、セルフィーやSNSには苦い顔。

 カンヌといえば、華やかなレッドカーペット。今年でカンヌ映画祭は68回を数えるから、12回目のマダムアヤコはまだまだ新参者のクチだが、それでも10年以上通うと変化は感じる。

マダムアヤコの後ろで堂々とセルフィーを撮る集団。マダムの写真は同行者が撮ったのだが、それでも時間がかかると注意される。

 まず、10年前にはiPhoneはなかったから、誰もレッドカーペットでセルフィー(自撮り)なんてしなかった。連れがいれば、お互いにデジカメで撮り合いっこをするくらい。ところがiPhoneをはじめとするスマホの登場で、レッドカーペットはあっという間にセルフィーの名所になった。

 しかし、毎回2000人以上もいる招待客が全員レッドカーペット上でそれをやり始めたら、入場が滞ってしまう。そこで私みたいな無名の者が撮っていると、係員にさっさと階段を上がるようにせっつかれるように。

 だが、セレブたちのセルフィーには係員も文句を言えない。カンヌのレッドカーペットには、毎晩100人近いスターやモデル、映画界の大物らが登場するし、大作映画や授賞式になったらそれ以上。さらにはSNSにその場でアップしようと立ち止まる人さえいる。セルフィーによる渋滞は、年々、問題視されるようになった。

 実はカンヌのレッドカーペットは1日1回ではないのだ。映画祭会場パレの中でも最も大きいシアター・ルミエールでは、だいたい夜7時、10時、週末には深夜12時半にも公式上映がある。その都度、観客を入れ替え、セレブがカメラマンに向けてポーズを取るわけで、それだけでも時間がかかるのに、セルフィー渋滞が起きるとどんどん上映が遅れてしまう。

 さらにセルフィーの蔓延は映画祭の品位にも関わることだと、映画祭側は考えた。かつての優雅なカンヌのムードを取り戻すため、映画祭側は今年、レッドカーペット上でのセルフィーを自粛するよう、お達しを出した。

朝のプレス試写では、レッドカーペットも単なる通路でしかない。

 今年のオープニング作品『Standing Tall』に主演したフランスの大女優カトリーヌ・ドヌーヴも、誰もがツイッターやインスタグラムに投稿する状況に「映画スターには華麗さと神秘性が必要なはず。SNSですべてを見せてしまったら、誰もスターに夢を抱けない」と嘆いた。映画祭会長ピエール・レスキュールは「どっちにせよセルフィーではみんな醜く写る」と語っていた。

 こうした映画祭側の呼びかけにより、レッドカーペットでのセルフィーはかなり少なくなり、スムーズに人が流れるようになった。しかし一方で、優雅で華麗な映画祭を取り戻そうという映画祭側の意向が行き過ぎてしまった事件も起きていたのだ。

2015.07.16(木)
文・撮影=石津文子