ハイヒールを履いていない女性は入場禁止?

女性の服装には割と寛容なのだが、足元には厳しい。

 それは、ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラがレズビアン・カップルを演じた今年一番の話題作『Carol』のレッドカーペットでのこと。招待客としてやってきた女性プロデューサーが、ハイヒールを履いていないという理由で入場を断られたというのだ。

 レッドカーペット、正しくは“ソワレ”(Soirée)と呼ばれる夜の公式上映は、観客もカメラマンも全員正装することが義務づけられている。男性ならタキシード、女性はドレスまたはスーツというのが基本だが、靴はフォーマルに則っていれば、ローヒールでも構わないはず。

左:『Carol』の主演ケイト・ブランシェットも怒ったはず。
右:『リトル・プリンス 星の王子さまと私』の日本語版声優としてレッドカーペットを歩いた鈴木梨央ちゃん。草履は大丈夫なようだ。

 実際、このプロデューサーも上はドレッシーな服装、足下はラインストーンのついたフラットシューズで、正装にふさわしいものだったそう。他にも係員にローヒールやフラットシューズを注意をされたという声が続出、女性差別だと問題になった。女同士の恋を描いた映画でこんなことが起きるとは!

 映画祭ディレクターのティエリー・フレモーは「カンヌはハイヒールを義務づけたりしていない」と弁明したが、どうやらレッドカーペットの係員たちは「昔のように優雅に、華麗に」という映画祭の意向を極端に受け止めていたようだ。実際、私の知り合いはプレス試写のときですら、トング・サンダルを履き替えるよう言われたという。あれま。

『プラダを着た悪魔』から9年。『Sicario』では激しいアクションを見せたエミリー。ベニチオはいつも冗談ばかり言っている。

 これに対し、『Sicario』でFBIエージェントを演じたエミリー・ブラントは記者会見で「みんなハイヒールなんてやめて、フラットシューズを履くべき」と主張。共演のベニチオ・デル・トロは代わりにハイヒールを履こうかと笑っていたが。どうやら、今年のカンヌは「ハイヒール・スキャンダルの年」として記憶されそうだ。

石津文子 (いしづあやこ)
a.k.a. マダムアヤコ。映画評論家。足立区出身。洋画配給会社に勤務後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。映画と旅と食を愛し、各地の映画祭を追いかける日々。ときおり作家の長嶋有氏と共にトークイベント『映画ホニャララ はみだし有とアヤ』を開催している。好きな監督は、クリント・イーストウッド、ジョニー・トー、ホン・サンス、ウェス・アンダーソンら。趣味は俳句。俳号は栗人。「もっと笑いを!」がモットー。