ファミレスでランチを食べるカップルの姿が浮かぶ

山口 最近は「Jロック」という呼び方が定着しましたが、この曲も日本のギターバンドの王道スタイルですね。

伊藤 サウンドは王道だし、メロディ的にも目新しさがあるわけではない。だけど、歌詞がなんともいえない素朴さと優しさをもっていて興味深い。

山口 歌詞の世界も、ちょっと情けない男のラブソングという、良い意味でも定番感だなと。

伊藤 “情けない”というよりは感傷的というか。雪と彼女という何でもない景色に深く感動して、センシティブな男っぷりを発揮している。「君がいい」という言葉がやけにグッとくる。

山口 そうですね。グッとくる箇所がありますね。

伊藤 恋しているときの、どんなことをしていても好きな人が愛おしく見える、純粋で無垢な瞳が、心が、ステキに描かれています。

山口 アナリスト伊藤涼としては、この歌詞からどんな「妄想分析」が浮かびますか?

伊藤 12時半のファミレス、窓際の落ち着きそうな席は空いていなかった。右となりに座っている主婦らしき3人組はランチを食べ終わったのか、ペチャクチャお喋りをしながら乾いたケーキとドリンクバーで粘っている。時折、思いだしたようにフォークの先にまとわりついた生クリームとチョコレートを舐める。その姿は何かメス的というか……食べるというよりも弄んでいるといった感じだ。

 左となりの席には20代後半くらいのサラリーマンが2人、鉄板プレートに載った肉々しいハンバーグと格闘している。ナイフとフォークでこれでもかっていうくらいにガチャガチャ音を立てながら、切り取った塊でデミグラスソースをすくいとる。そして肉食動物が口の周りを血だらけにするように、ソースで口の周りを汚していく。そのうえライスを押し込み、グチャグチャと嫌な音を立てる。

 決して両どなりの客が特に酷いってわけではないと思う。ただ、個人的に人が食べているところって苦手だ。潔癖症とかじゃ全然ない。きっと自分の育てられた家庭環境が影響しているのだろうか、とにかく汚らしく感じてしまう。だから友達と食事とかも気が進まない。それにテレビなんかでタレントが食レポしたりする番組なんて観たくないし、大食いとかありえない。

 だけど今、ファミレスの喧騒の中、付き合って3カ月の彼女が目の前に座っている。カルボナーラに似たスパゲッティをフォークに巻きつけながら口に運んでいる彼女は、ひたすらに愛おしい。口の中が空になるたびに、どれだけお腹が空いていたか、どれだけこのパスタが美味しいか、デザートも食べていいか? を無邪気に話す姿はまるで子犬。オレがいなければ生きていけないのでは、と感じてしまう。空腹を満たし、美味しかったと笑う彼女は、なんでこんなにスペシャルなんだろう。

山口 オリジナル曲とは対照的な、ドライな世界観になるんですね。アナザーワールドを見せてくれる「伊藤涼妄想分析」からは、毎回、新たな刺激をもらいます。

back number「ヒロイン」
ユニバーサル ミュージック 2015年1月21日発売
初回盤[CD+DVD]1,500円、通常盤[CD]1,000円(税抜)
■back numberは、2004年に群馬県で結成され、2011年にメジャーデビューを果たした3人組バンド。11枚目のシングルとなる「ヒロイン」の表題曲はJR SKI SKIのCMソングに起用され、同CMに出演する広瀬すずが初回盤のジャケットにも登場している。
■「ヒロイン」作詞・作曲/清水依与吏 編曲/back number & 小林武史
■オフィシャルサイトURL http://backnumber.info/

【動画サイト】
「ヒロイン」
URL https://www.youtube.com/watch?v=CsRgs9GBky8

2015.01.15(木)
文=山口哲一、伊藤涼