音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!

 さて、近々リリースされるラインナップから、彼らが太鼓判を押す楽曲は?

【次に流行る曲】
米津玄師「Flowerwall」

キワモノ扱いされない初のニコ動出身クリエイター

伊藤 今回は米津玄師の「Flowerwall」。1年くらい前、車の運転をしているときに、横に乗った友達のiPhoneから流れてきたのが米津玄師との出逢い。へぇ~こんなアーティストいるんだぁ、ロックだけどロックじゃないね! というのが最初の印象でしたね。

山口 ロックだけどロックじゃないというのはどういう意味ですか?

伊藤 単純にバンドっぽくない。サウンドも今っぽくてカッコイイけど、泥臭さを微塵も感じさせない。RADWIMPS世代なんだろうなぁ~と思うんだけど、バンドではない。

山口 なるほど。彼の出自も関係しているんですかね?

伊藤 そうかもしれないですね。もともとは「ハチ」という名義でボカロP(ボーカロイドプロデューサー)をやってて、そっちは“いかにも”ニコ動っぽい世界なんだけど、彼のインテリジェンスが溢れている。

山口 米津玄師は、エポックメイキングな存在だと思っています。「ボカロP」や「歌い手」と呼ばれる、ニコニコ動画のクリエイターが人気者になって、メジャーシーンに出てきた人は他にもいたのですが、どこかキワモノ扱いでした。悪い言い方をすると、一定数のファンがいるから、レコード会社が乗っかって、そこに対して「商売する」印象というのでしょうか?

伊藤 たしかに。

山口 ところが、米津玄師はそうではありませんでした、オタクカルチャーなどは意識させずに、期待の新人、ロックアーティストとして、音楽メディアに扱われ、音楽誌の表紙を飾りました。これは、UGM(ユーザージェネレイテッドメディア)であるニコニコ動画のシーンが、メジャーシーンへの登竜門としても機能したことを意味します。これは初めての現象で、エポックメイキングになるかもしれないと思い、僕が編集委員をやっている「デジタルコンテンツ白書」(経済産業省監修)の2013年版でも紹介しました。マクロ視点の分析を書く本なので、個別のアーティストについて語ることはほとんどないのですが、この「米津玄師現象」は記しておくべきかなと。

伊藤 そうなんですね。

2014.12.28(日)
文=山口哲一、伊藤涼