今月のテーマ「袖振り合うも」
【MAN】
どうして人生はこんなに残酷で、人はこんなに優しいのだろう
本当なら関わらなくても済ませられる者同士が、わがままを言ったり、ひと肌脱いだり、お節介を焼いたりする。豊田徹也が描く「縁」は、そんな優しさでできている。
表題作では、24歳の田村浩一が居候先のアパートに連れてこられた少女の世話役を仰せつかる。10歳くらいに見えるひろこは、ゴーグルをつけたまま一語もしゃべらない。どう接していいものかとまどいながらも、浩一は身の回りの世話を焼く。ひろこが殻に閉じこもってしまった理由はやりきれないが、それさえ〈誰が悪いとかそういう話でもない〉と誰かを悪者にして終わらせたりしない。ふたりの間に芽生えた絆くらいでは一発逆転なんてないけれど、並んで見上げる空はなんと美しいのか。
ひろこと祖父の触れ合いを描いた前日譚「海を見に行く」や、銀行の過去の不正融資疑惑と思い出の味をモチーフにした「とんかつ」など、沁みてくる作品ばかり。
『ゴーグル』 豊田徹也
マンガ史に燦然と輝く傑作『アンダーカレント』の作者、豊田徹也。彼のデビュー作「ゴーグル」から、現時点での最新作(といっても、もう1年半も前)までを含む6つの短篇集。デビュー10年で著作が3冊という超寡作作家だが、比類なき完成度にはいつも圧倒される。
講談社 905円
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2014.08.04(月)
文=三浦天紗子