料理好きの間で人気の高い小説、『キャベツ炒めに捧ぐ』。その続編『キャベツ炒めに捧ぐ リターンズ』が14年ぶりに刊行されて話題を呼んでいる。惣菜店を切り盛りする、60代女性3人の物語だ。それぞれの過去と今と食欲とが織り成す、温かく、ときに切ない世界。作者の井上荒野さんに思いをうかがった。


「今、何を食べたいか」って私はもう、すっごく考えるんですよ。

――前作もそうでしたが、『キャベツ炒めに捧ぐ リターンズ』は読んでいて最高に食欲を誘われる小説でした。さりげなく描かれ続ける、主人公たちの食い意地の強さ。「この人たち、相当な食いしん坊だ」と伝わるからこそ、「この人たちの作るもの、絶対においしい!」と感じられてくる。メニューは基本的にすべて、荒野さんが作ったことのあるものなんですか。

井上 大体はそうですね。今回は郁子たちが食事に行くイタリアンなど、ちょっと気取ったものも出てきますが、あのへんは食べたことあるだけです(笑)。近所のお店で食べて、おいしかったので。

――『キャベツ炒めに捧ぐ リターンズ』(以下、「リターンズ」)の主人公3人って、「今、何を食べたいか」にものすごく貪欲かつ忠実な人々。そういう意味で、この点でも「荒野さんの子ども」という気がします。

井上 そうですね、私の子どもですね。「今、何を食べたいか」って私はもう、すっごく考えるんですよ。でも日々の食事は夫もいるから、相手の食べたいものも考える。年に1度ぐらいだけ夫が仕事でいない日もあるんです。もうそうするとねっ、「きょうはなんでもいいんだ、何食べよう、何食べよう!?」って一日考えてるんですよ。

――ご一緒だとそうはいかない?

井上 夫はお酒を飲まないので、ごはんのおかずが要りますから。完全に自分の食べたいものだけを作れるというのが楽しい。自分だけならもう酒の肴を6品だけとかでもいいわけで。

――荒野さん、語る目がランランとされています(笑)。夫さんは以前、料理をまったくしなかったのが10年ぐらい前から始めて、今やかなりの料理上手に。そんなお話をInstagramにつづられて、話題にもなりましたね。

井上 確かに上手になりました。「これが食べたい」と自分が思った料理の完成度は高いけど、基本的に一品主義なんです。でも私もいるから酒の肴とか、野菜の副菜も作らなきゃ……とは思っても、関心がないから雑なんですよ。副菜に関する考え方が(笑)。

――酒のつまみになりそうなものって、飲まない人には伝わりにくそうですね。

井上 レタスちぎって、ゆでたまごのせて、マヨネーズかけただけのものを大量に作ったりします。それと麻婆豆腐なんて組み合わせだから、お酒のつまみとしてはね……(笑)。麻婆豆腐自体はおいしいんですけど。「ちょっと胃がもたれてるから、あっさりしたものがいい」とリクエストしたら酢豚を作ってきたことも。「お酢が入ってるからさっぱりしてるだろう」って、意味が分からない(笑)。献立力は本当にないの。

――誰かの好みを考えて作るのはむずかしいですよね。自分の食べたいものが思い浮かんで作れる、のはすごいことだけれど。

井上 スーパーに行くと途方に暮れるって人、いますね。何を買っていいか分からないと。そういう人もいるんだな、って聞いていて思いますが。

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