外食が続いて栄養バランスが乱れてしまった、冷蔵庫の余り食材や消費期限が迫る調味料の使い方がわからない……体や台所をすっきりさせる“食の帳尻あわせ”のヒントを、フードライター・白央篤司さんが日々の食体験とともに綴ります。
親に教わったことって、体にしみついているものだなとよく思う。11月も下旬になり、アウターのポケットに手を突っ込んでしまいがちなこの頃、駅で階段を降りるときなど母の口調で「ポッケに手を入れたままにしない!」という言葉がよみがえってくる。転んだとき手をつけないから、という理由だった。今でも忠実に守ってしまうのは、「三つ子の魂百まで」というやつだろうか。しかし、こないだ酔っぱらって階段でコケたときは相当痛かった。登りだったので派手なケガには至らなかったが、翌朝見れば脚に青黒いアザふたつ。情けなかった。でもこれで手をポケットに入れていたら、頭や顔を打ったかもしれない。教えが効いた、と思うことにする。
このところ外食や会食が続いてしまい、胃が少し疲れていた。「やさしい味を送ってくれ~」と体が言っているような気がしたとき、とっさに思ったのは「長芋をすろう」ということだった。これも、親仕込みである。
「とろろは、胃が疲れてるときにいいんだよ」
長芋をおろすとき、母はかならずこの言葉を繰り返す。つるっと食べられて、ごく淡白な味わいが食べやすいから、そう言われてきたんだろう。ごはんにかけて食べるのもいいが、きょうはとろろ蕎麦にしたくなる。
濃いめの出汁を用意して、蕎麦つゆの塩気は控えめに作ろう。いい出汁のおつゆを飲むと、それだけで体が喜んでいるように思える。出汁に酒とみりんを加えて煮立たせ、薄口醤油で塩気を決め、少々の濃口醤油で香りを付ければおつゆは完成。白髪ねぎと青ねぎ、両方入れるのがちょっとした私のぜいたくである。
さあ、いただきます。汁と一緒にとろろのひとかたまりをすすって、体に流し込む。うーん…………ホッとする。ホッとするなあ。気ぜわしかった最近の自分にひとつピリオドを打てた気持ちになる。蕎麦にとろろを絡めてすするのがまた、たまらない。
その日そのとき自分が食べたい味を作れるのが、自炊に慣れる醍醐味だ。胃を休めたいから、今回は七味をかけない。辛いものは消化にあまりよろしくないのです。
薬膳がちょっとしたブームになっているけれど、長芋は乾燥する今の時期に適した食材でもあるらしい。薬膳的に長芋はからだを「潤す」食材とのこと。そういえば私は寒い時期、鼻の中が乾きやすい。長芋が食べたくなったのは、からだが「潤し食材」を求めているのかもしれない。
長芋はとろろもいいけれど、皮をむいて輪切りにし、両面に焼きをつけて塩、または醤油で食べるのもおいしい。手軽な一品おかずにもいいし、お肉の付け合わせにも。太めのスティックに刻んで、ナンプラー炒めというのもよくやる。これ、ビールのつまみに最高なので、お酒好きの人は試してみてほしい。味つけはナンプラーだけの手軽さもいい。
