誰かが好き、という感情も、大きな島が動くようなときもあれば、一瞬のまばたきのうちに生まれることもある。そんな感情がすぐに消えてしまうことも珍しいことではない。好きだという気持ちを相手に伝えたとしても、うまくいかないことのほうが多いのかもしれない。そんな経験をしても、人は誰かを好きになってしまう生きものだ。
ひどく傷ついた経験があったとしても、また同じことをくり返したりする。それを愚かなことだと言える人など、この世界にはいないはず。私のそういう思いが、この短編集のどこかにひそんでいて、読者の方が受け取ってくれたら、これ以上の喜びはない。
「宙」という文字はいつかタイトルに使いたいと思っていた。
空を超えて、宇宙に近づくほどに硬質な色を帯びる青をイメージした。
「パスピエ」や「雪が踊っている」など、ドビュッシーの曲名からタイトルを使わせていただいた作品もあるので、宙色の空の下で、皆がダンスをしているイメージで、とデザインをお願いし、装画の宮岡瑞樹さんと装丁の大久保明子さんが素晴らしい表紙に仕上げてくださった。
カトリックの学校に通っていたので、クリスマスの時期が近づくと、毎年ハレルヤコーラスの練習があった。上手に歌えていた、とは思えないけれど、あの歌には妙な高揚感があって、歌っているうちに体と心にたまっている澱が燃やされていくような思いがしたものだ。そんな大げさなものではなくても、この本を読んだ方の体温が、ほんの少し、上がってくれたらいいな、と心から思う。これから年末に向かって、忙しい日々が続くのだろう。季節の合間、深呼吸するように読んでほしい。

宙色のハレルヤ
定価 1,870円(税込)
文藝春秋
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