『花子とアン』でおなじみの子役・山田望叶も登場
舞台挨拶の途中から、子供時代の花を演じた山田望叶ちゃんもステージに登場。NHK連続テレビ小説『花子とアン』でも主人公はなの幼少期を演じ注目を集めた望叶ちゃんにとって、『私の男』は女優デビュー作。現場の感想を聞かれると「まだ女優じゃないので」と断りを入れてから、「一人で演じるシーンは恥ずかしかったです。でも、皆さんと映画を作るのが楽しくて、わくわくしました。最後の日は、終わらないでと思いました」と、9歳とは思えぬしっかりとした返答で観客を驚かせた。浅野忠信が「監督に手紙を書いたんだよね?」と話を振ると、熊切監督が「『コマネチ!』と書いてありました」と中身を暴露、会場は爆笑に包まれた。
最後に、浅野は「僕とふみちゃんで強烈な時間を過ごさせてもらい、それを監督が切り取ってくれました。妥協なく作った作品です」と作品への想いを語り、二階堂ふみは「すごい画が撮れました。スクリーンで観るべき映画だと思います」とアピール。禁忌をおかす父娘を真正面から捉えた熊切監督も「原作自体が逃げずに取り組んでいる作品なので、僕も逃げずに描きました。大きなうねりを、全身で味わってほしい」と、自信を見せた。
原作は、結婚を控えた25歳の花と42歳の淳吾の別れから、章ごとに時間を遡っていくミステリアスな構成だが、映画は奥尻島地震で孤児となった花と淳吾の出会いから時系列に沿って描いていく。落ちぶれた貴族のように惨めだが優雅な男と、父になら殺されてもいいと言い放つ、底なしの淫蕩さを秘めた娘。二人の血の濃さを、白い世界に焼き付けるように映画は進んでいく。
特筆すべきは、二人の出会いは16ミリフィルム、紋別での生活は35ミリフィルム、そして上京後はデジタル撮影と、使い分けられていることだ。殊に流氷の美しさ、荘厳さ、そして恐ろしさを捉えた35ミリフィルムの映像は、その幼子の鳴き声のような軋音と共に、観る者に覆い被さってくる。ジム・オルークの音楽や原作との変更部分も含め、映画ならではの禍々しさが感じられる作品となった。
2014.06.21(土)
文=石津文子