日本の移民文学にも興味が
――本作のこの先の構想を、可能な範囲でご紹介いただけますか?
藤見 3巻くらいでまとめる感じかなぁと。最後は弟の話になるんじゃないかと思っています。『半分姉弟』はまだあまり描かれていない人のことをわかってほしいという気持ちが強く出ているマンガなんですけど、もうちょっと自分の実感に近いことも描きたいなという気持ちが最近ちょっとわいていて。自分と親との関係とかも話の中に落としこんでいけたらいいかなと。
――そう思うきっかけが何かあったのでしょうか。
藤見 この作品を描き始めてから日本の移民文学にも興味が出てきて。いわゆる「在日朝鮮人文学」の蓄積ももっと学びたいと思ってます。最近の作家さんでは温又柔さん、グレゴリー・ケズナジャットさんとか。広義的にはミックスルーツの安堂ホセさん、伊藤亜和さんの著作などもとても面白く読んでいます。このような純文学の領域ではパーソナルな感情について深く掘り下げるような書き方をやっていらして。そういうことにもチャレンジしてみたいと思うようになったんです。
――描きながらどんどん視野が広がっているのですね。
藤見 最近は終戦後すぐに生まれたハーフの方々の講演にけっこう行ってるんです。米兵と日本人女性の間に生まれた人たちは想像を絶するような苦労をしてきている。終戦後って反米の感情がものすごく強いですからね。あまりに過酷な体験をしすぎて語りたくない人も多かったようで、あまり証言が残っていないのが現状です。でも、お話を聞けるうちにきちんと取材をして描きたい、ちゃんと残しておきたいなと思います。
お気に入りのマンガ作品は?
――扱う世代もより幅広くなって、さらにすごい作品になりそうで楽しみです。では最後に、藤見先生の最近のお気に入りのマンガを教えていただけますか?
藤見 たくさんあって困るんですけど、一番は『バルバロ!』かな。岩浪れんじ先生が大好きなんです。前作の『コーポ・ア・コーポ』から夢中です。岩浪先生は100年に一人の天才ですよ! 前作からずっとどうにもならない人間たちの姿を描ききっていて、情緒の緩急の付け方やコマ割りにも惚れ惚れしてしまいます。『バルバロ!』はより楽しく読んでもらうことを意識して描いているとおっしゃっていて、その気合いも感じます。ギャグセンスも最高です。
『バルバロ!』は単行本のすきまページに登場キャラの女の子が使ってるコスメ情報とかが細かく書かれているのもまたいいんです。綿密に裏打ちされた人物描写がたまりません。岩浪先生の鋭い観察眼と、周囲の人々への愛情を感じます。岩浪先生は同業者であるマンガ家のファンが多いように感じていて、一番かっこいいタイプの作家さんだと思います。
――岩浪先生とお会いになったことは?
藤見 あります。ふつうにいちファンとしてトークイベントを見に行って、最後のサイン会のときに名前を言ったら「マンガ読んでます」って言われて。うれしくて舞い上がってテンパってしまって、どうでもいい話しかできなかったんですよ。もっとマンガのことをちゃんと聞けばよかったって後悔してます(笑)。
岩浪先生、トークもすごく興味深かったです。フランス文学やラテンアメリカ文学、イタリア貴族小説なども読んでいらっしゃるそうで。マンガもおそらく相当の量を読んでいて。膨大なインプットに支えられた筆力なんだなと。かっこよすぎます。目配りしている作品の層がかなり厚くて、こんな作家さんがいるんだと……憧れの存在です。『バルバロ!』の更新をめちゃめちゃ楽しみにしてます。
――マンガは電子で読むことが多いですか?
藤見 単行本は紙派です! でも、お気に入りのマンガはやっぱり更新されたら即読みたいですから。リアタイでSNSで流れてくる感想を読むのも楽しいですし。
更新が楽しみといえば『花四段といっしょ』もです。増村十七先生は一度トークイベントをいっしょにやらせてもらったんですけど、ご本人も増村ワールドにいそうなおもしろい方で。増村先生は、キャラクターのペルソナの多面性を描くのが抜群に上手いなと思います。「このキャラはこのキャラといるとこういう顔をするんだな」という引き出しがすごく多い。『花四段といっしょ』はコメディパートはひたすら面白いんですが、ドラマチックな場面はビシッとキメるところも憧れます。
『バクちゃん』もおすすめです。『バクちゃん』は移民をテーマにした作品として「以前/以降」に分かれるような作品だと思います。私自身も『半分姉弟』を描く上でもちろん影響は受けました。一方で、増村先生がトークイベントで「『バクちゃん』のあとにもっとこういうテーマの作品が増えると思っていたのに……」と仰っていたことも印象に残っていて。『バクちゃん』は2021年に完結した作品なのですが、移民やそのルーツの人を主人公として描いた作品は依然少ないですよね。前述した通り、まだまだ企画自体が通りにくいのが現状だとも思います。『半分姉弟』を描き続けることで、私もちょっとでも良い流れを作っていけたら本望です。

半分姉弟 1
定価 880円(税込)
リイド社
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- 文=粟生こずえ
写真=平松市聖 - keyword
