父の「僕へのエネルギーの注ぎ方は半端じゃなかった」
歴史書には描かれていない口伝話を聞くほか、宮司に紹介された人に会いに行き、質問攻めにすることも。
「子どもってなんでも質問したくなる『なぜなぜ期』があるじゃないですか。僕の場合、それが今も続いている感じ。僕は空手からこの世界に入りましたが、試合は礼に始まり礼に終わり、道場には神棚がありました。『なぜだろう』と思ってそのルーツを辿っていくと武道があり、武道のルーツを辿っていくと神道に辿り着くんですよね」
5歳で空手を始め、K-1に憧れて小学5年生のとき、キックボクシングに転向。弱冠15歳でプロデビューを果たし、神童として世界の注目を集めた。彼をこれほどまでの存在に育て上げたのは、ほぼ格闘技の経験がない中、二人三脚で那須川を指導してきた父・弘幸さんだ。
「妹や弟には結構優しいんですけど(笑)、僕へのエネルギーの注ぎ方は半端じゃなかった。あの熱量で子どもに向き合うって普通できないと思うから、父のことは尊敬と感謝しかありません。この親子関係が普通じゃない、と気づいたのは高校ぐらいかな。練習中にぶっ飛ばされた話を同級生にしたら『何それ、大丈夫?』って(笑)。でも、僕も強くなりたかったから耐えきりました」

そして2021年、無敗のチャンピオンとしてキックボクシング界に君臨しながら、突如ボクサーへの転向を発表。「僕の人生は、挑戦しかない」とまっすぐに語る姿は、まるで少年マンガの主人公のようだった。得意のキックを封じられた世界にあえて挑戦する。根底にあったのは、神童と呼ばれた頃から常々インタビューで語ってきた「格闘技界を盛り上げたい」という、ただその一心だ。
2025.09.29(月)
文=大西展子、「週刊文春WOMAN」編集部