道東に位置する知床半島は「大地の果てるところ」ともいわれるアイヌ語の“シリ・エトコ”が語源。豊かな世界自然遺産の地で野生動物や植物の息遣いを感じ、自然の尊さを見つめる(最初から読む)。
ドングリの木が司令塔に!?

ガイドの同行なしでは入ることができない原生林のツアーは往復3時間半のトレッキング。

トドマツが生い茂る原生林は日差しを覆う薄暗い森。その環境に合わせて植物たちが生きている。「小さなトドマツをよく目にします。少ない光でゆっくりと成長するのが特徴です」と山崎さん。

倒木の近くには餌を探すネズミがおり「餌のドングリが去年豊作だったのでネズミが多い印象です。それを餌にするキタキツネも今年は増えるかもしれません。ドングリは数年おきに不作の年があり、それによって捕食動物の数がコントロールされているという説もあるんです」と。

不思議なのは豊作、不作のサイクルが一定のエリアで同時に起こっていること。「木同士で特別なコミュニケーションをとっているのかもしれませんね。“人間なんてまだ言葉でやりとりしてる”と思われていそうで」。植物たちの神秘の営みに驚かされる。

知床の自然が守られている理由の一つが地域を愛する人々の力だった。1965年頃、羅臼岳山麓に広がる開拓跡地が不動産業者の買い占めに直面。それを回避するため当時の斜里町町長の掛け声で始まったのが「しれとこ100平方メートル運動」。

一口8000円の寄付金を募り土地を買い取り、開拓時代の前の姿に戻す取り組みは、今でいうクラウド・ファンディングだ。全国から寄付が集まり2010年に土地の取得が完了。その挑戦が、世界自然遺産登録の後押しになったそうだ。

ピッキオ知床
所在地 北海道斜里郡斜里町ウトロ東284
電話番号 0152-26-7839
〈知床の海と陸のツアー〉ゴジラ観光のクルジーング(午前)、ピッキオ知床のトレッキング(午後)のセット13,100円~(夏季のみ)、〈原生林トレッキング〉6,000円など。
https://shiretoko-picchio.com/

Column
CREA Traveller
文藝春秋が発行するラグジュアリートラベルマガジン「CREA Traveller」の公式サイト。国内外の憧れのデスティネーションの魅力と、ハイクオリティな旅の情報をお届けします。
2025.10.02(木)
文=梅崎奈津子
写真=橋本 篤
CREA Traveller 2025年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。