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M-1の現場で目撃する、芸人たちの一面

――『M‐1』の現場はディレクターなら誰もが経験されるんですか?

 ABCテレビの制作部に配属されたら、基本的には全員が通る道ですね。私ぐらいの年次以下の人間はほぼ総動員です。準決勝までは予選会場でカメラを持って芸人さんに密着させてもらって、予選が終わると決勝チームと敗者復活戦チームに分かれて準備を進めていく流れになってます。私はこの5年、敗者復活戦のほうでディレクターやプロデューサー業務をやらせてもらっています。

――出場者への密着映像は『M‐1』の重要な構成要素ですよね。密着中はどんなことを意識されているのでしょうか。

 「今年優勝しますように……!」と願いながらも、「もし今年、この映像が使われなかったとしても今は目の前のこの人を主人公として撮ろう」と思ってます。もしかしたら何年後かに優勝して、映像が日の目を見るかもしれないわけですから。

――毎年決勝や『アナザーストーリー』などを観るにつけ、「よくこんな昔の映像があるな」と思わされますが、そういう積み重ねの上に成り立ってるんですね。

 まだ世に出されてない映像が膨大にありますね。倉庫にいっぱい詰まってるんで、必要な素材を探してきてくれるADさんはめっちゃ大変です(笑)。

――『M‐1』の現場に参加されて、ディレクターとして大きな収穫となったのはどんな部分でしょう?

 入社前から『M‐1』は観てましたし、制作部に異動するまではいち視聴者として単純に楽しんでいたんですが、現場に入ってみて「こんな裏側があるんだ」と気付かされることは多かったですね。

 特に印象に残っているのは、準決勝で敗退してしまった人たちの表情です。普段はすごく明るい芸人さんでも、見たことないような顔をされるんですよ。予選の合間の密着でインタビューしていても、芸人さんなのでしっかりお話してくれていろいろ引き出せはするんですけど、ほんまの気持ちや表情が出てくるのはやっぱりそういう瞬間なんですよね。

 特に私は敗者復活戦チームなので、「なんとかして決勝に上がりたい」という思いにしっかり寄り添いたいな、と。芸人さんの思いを自分の中でちゃんと消化してふさわしい舞台を用意したいと思ってます。

2025.09.14(日)
文=斎藤 岬