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少女が見ていた画面には

 一人暮らしの部屋にこんな子がいることはあり得ない。一瞬飲みすぎて何かとんでもない間違いをしたのかとも考えましたが、昨夜は仕事が終わって酒も飲まずに疲れて寝床に入ったはずです。

 テレビの明かりだけが明滅する暗い部屋で、女の子は黙ったまま画面を見つめていました。その顔を確認しようとするも、ベッドとの位置関係、そして未だ続いている金縛りのせいで見ることはできません。

 視線をテレビに移すと、中学生1年くらいの子たちがスケッチブックを手に、インタビューの真似事をしているのが映し出されていました。

 この映像、確か校内で流すために撮った映像だったよな――音もなく流れるVHSテープのようなぼやけた映像を見ていると、ふと記憶の蓋が開いたのです。

 画面にはマジックで大きく『●●放送部、夏の納涼特集』と書かれたスケッチブックが映され、それがパッと退かされるとキャスター役と思しき女の子と男の子が何かを説明しながら、古い校舎の方に入っていくところでした。

 えーっと、確かこのあと――。

「そう、この後すっごく怖いのが出てきて、放送どころじゃなくなっちゃうんだよねぇ」

 ベッドに寄りかかっていた女の子が急にそう言いました。

 彼女がゆっくりこちらに振り返ろうとした瞬間、視界が闇に包まれたのです。

「ハアッ…!! ハアッ…ハアッ…」

 Uさんは汗だくで飛び起きました。

 閉めたカーテンの隙間からは朝日が差し込んでおり、見慣れた部屋はいつも通り散らかりようでしたが、テレビの電源はしっかりと切れていました。

 あの女の子の姿は、どこにもありませんでした。

2025.08.12(火)
文=むくろ幽介