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温かな交流のあとに……

【●●年卒業生 同窓会会場】
そう門柱に立てかけられた看板の前で、少し尻込みしていると、少し離れたところにいた男性の2人組がこちらに近づいてきました。
「え、Uか?」
「おおー久しぶり!」
「I? めっちゃ太ったなお前! Fも老けたなぁ~」
「うるせ~!」
「お前こそ東京行ってやつれたなぁ」
当時の空気感に戻れるかなという懸念が杞憂に終わるほど、旧友との再会は温かいものでした。
そうして足を踏み入れた母校の体育館は、細部は変われどもあの時のまま。ただ、大きくなってしまいそのサイズ感が当時と違って感じられ、時が経ったことを噛み締めたと言います。
しばらくの間ワイワイと旧交を温めながらお酒を酌み交わしていると、盛り上がったIさんがこんなことを言い始めました。
「そういえばUも、正式には入部していなかったけど放送部の手伝いしていたよな」
「え、そうだっけ?」
「確かいた記憶ある。俺も放送部のSとかに手伝い頼まれたんだけど嫌で断ってさ、その代わりにUが捕まって手伝わされていた記憶あるぜ」
「あー、なんか、ぼんやり覚えているかも……」
「今日は放送部のメンバー誰も来てないよな。いたら色々思い出せたのに」
放送部は3人くらいしかいなくて、いつもホームルームで手伝いを募集していたっけ――おぼろげな記憶が蘇ってきた頃に一次会が終わり、主催からのサプライズで、旧校舎を含む一部の教室を解放した二次会が始まりました。
Uさんは、なんとなくモヤモヤした記憶を抱えたまま、同級生たちとともに旧校舎に足を踏み入れたのです。

禍話
2025.08.12(火)
文=むくろ幽介