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わからないから考え続けて、虫を食べた

――撮影スタッフは平監督をはじめ沖縄の方々が多かったそうですから、そのサポートやアドバイスを積極的に活かされていたのですね。今回の役を演じるにあたり、干し芋だけを食べて体を絞る、という役作りもされたそうですね。

 それは勝手にやっていただけで、役作りとはあまり思っていなくて。矛盾しているかもしれませんが、戦争を体験した人たちの気持ちはわかるはずがないんですよ。だから考え続けるしかない。虫を食べるなら、偽物を食べるんじゃなくて、そういうところで嘘はつきたくないと思ったので、本物のウジ虫を食べました。

――実際に潜伏していた兵士と同じように虫を本当に食べたとのこと。とても驚きました。戦争を体験していない人間が、本当の意味で兵士の方々を理解することは難しいからできることをする。山田さんの誠実な考え方による真摯な取り組みですね。

 当たり前のことを当たり前にして、どれだけ近づけるか。それを大事にしていました。撮影前に、この物語のもとになった佐次田(秀順)さんのお話を記録したテープの書き起こしを読んで、どういうことを思っていたのか、自分がそこにいたらどうしただろうか、と、とにかく考えました。

そこで人間の“格”が変わってくる気がするんです

――資料から当事者である佐次田さんの思いに考えを巡らせ、もし自分ならと考え続け、現場で役作りをされていったのですね。『木の上の軍隊』の撮影を経て、歴史や地域に対する見方や考え方で、ご自身の中で変わったことはありましたか。

 歴史や地域に限らず、語られないことはたくさんあるんだろうと思います。たとえば僕らが今話していることも全部が載るわけじゃなくて。こうして話しているトーンやニュアンスをそのまま文字にするのは難しい。当たり前のことですけど、「本当のこと」とはなんだろう、と考えるようになったかもしれません。

――残されたテキストがすべてではなく、そこに言葉としてなくとも、行間にあるものを汲みとろうとされたのですね。

 だから僕は絶対に見たものだけで人を判断しないし、「あいつのことわかってる」という人ほど信用ならないものはないと思っています。「人のことを完全に理解できている人なんていない」というのが僕のベースにあります。こう言っている、というところから、考えられる力があるかどうか。そこで品格が、人間の“格”が変わってくる気がするんですよね。

 堤さんとか、僕が今まで共演してきたすごい先輩たちは、その奥を考えられる人が多い印象です。そこでまた改めて感じるんです。本物ってなんだろう、と。

2025.08.02(土)
文=あつた美希
写真=松本輝一
ヘアメイク=小林純子
スタイリスト=森田晃嘉