ヨーコはジョンに〝去勢された〟
私のインタビューで、ジョンはこう述懐している。
「名前は出さないけどビートルズのアシスタントが、ビートルズの取材アシスタントの中でも偉いほうのアシスタントだったけど、皆で一緒にいろいろやってた初期の頃の話ね(中略)彼が体を寄せて[ヨーコに]こう言ったんだ。『なぁ、働かなくてもいいんだろう。もう金は十分あるんだし、こうしてミセス・レノンになったんだから……』。68年とかだったかな……。73年になる頃には、そういう態度をずっととられてたらこっちも去勢されてしまうよ」
「表現間違ってるかな?」と彼はヨーコに訊いた。
「その通りよ!」とヨーコは言った。「私は去勢されたの」
「その上、こういう大騒ぎがなくたって、私が私でいることは十分大変なことだっていうのに」

彼女はアレクサンドラ・モンローにかつてこう言ったことがある。
「ジョンと出会う前は、私はコンサートや講義を月に2回やっていた。声がかかったから。いつも自分を表現することができていた。それが突然、ビートルズのメンバーの妻になったせいで、私に求められたのは口をつぐむことだった」
「ミセス・レノンでいることから解放されたい」
彼女こそが、彼が一生探し求めてきた女性だった。彼を救ってくれる人物――母親だった。彼女に自分を救ってもらいたかったが、彼女は別に男性の救いにはなりたくなかったし、男性に自分を救ってもらいたくもなかった。自分で自分を救う必要があった。
ヨーコはこう語っている。
「ジョンと出会った頃、彼にとって女性とは自分に仕える周囲の人々だった。ジョンは私に自分がどういう人間かを見せて、私と向き合わなければならなかったの――そして、私の方は彼がどういう思いをしているのかを理解しなければいけなかった。でも……ジョンと一緒にいることで苦しんでたから、また“先に進む”必要があると思ったの。ミセス・レノンでいることから解放されたいと思った」

オノ・ヨーコ
定価 3,850円(税込)
ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス
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2025.07.20(日)
文=デヴィッド・シェフ
訳=岩木貴子