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 高値が続く米騒動は今年になっても冷めやらず、無理して古古古米を買うのも気がのらないという人も多そうなこの夏。でもバターや生クリームたっぷりのリッチなパンはカレーや焼肉、エスニック料理には合わないし、素麺やパスタなどの麺類も日々の食卓の“おかず”に合わせるのは難易度が高い。そんな悩める主食問題においしい光明を放つのが、今回ご紹介する「中国パン」です。

 2022年に東京の下町・新小岩にオープンした「劉記 中華面食」は、日本で唯一の手作り中国パンの店。紀元前から小麦を食べ続けてきた歴史を持つ中国だけに、パンの調理法や食べ方は各地それぞれに独自の進化をとげています。「劉記 中華面食」は中国各地のパンが一堂に会する店。「中国でも、1つの店でこんなに多くの種類の“面食”を作っている店はないんじゃないかな」と店主の劉惢(リュウ・レイ)さんが話す、まさに奇跡のベーカリーです。

 店名の「面食」は“小麦で作った食べもの”という意味。プレーンなパンだけではなく、総菜パンや菓子パン、カステラや肉まん、皮から手作りした水餃子まで扱っていて規格外の面白さ!

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まるでごはんのように、多様な料理を受け止める花巻

 「この花巻を完成させるために、2年の歳月をかけました」と話す店主の劉惢さん。さまざまな国産小麦粉で試作を重ね、選び抜いた小麦粉2種をブレンドすることで中国本場の「花巻」の味と食感を再現。水と酵母、隠し味の塩を加えて練り、2度の発酵を経て蒸しあげた花巻は、ふわふわと柔らかく、新米ごはんのように滋味深い甘みを感じることができます。卵や乳製品を使っていないので、ユニバーサルに楽しめるのも嬉しいポイント。

 自宅で蒸し直してホカホカをそのまま食べてもいいし、料理に添えてソースをぬぐいなら食べてもよし。ハンバーグやエビチリ、麻婆豆腐や甘辛く煮た豚の角煮まで、和洋中問わずに合ううえ、バターやジャムをぬって食べてもおいしい。個人的なおすすめはタイカレーやスパイスカレーなどシャバシャバ系ルーのカレーやスープにどっぷり浸す食べ方。カレーやスープの旨みをスポンジみたいに吸い込んで、食感が「ふわっ」から「とろっ」に変化するのもいい。

 「劉記 中華面食」の花巻はプレーン以外にもバリエーションを揃えていて、取材時の店頭にはネギ入りや黒ゴマを練り込んだものが並んでいました。ほか、カボチャや黒米、冬はほうれん草を練り込んだ花巻など、訪れる度に楽しいフレーバーが待っています。

 花巻と同じ生地を使ったマントウ(饅頭)も要チェック。つるんと滑らかな肌を持つ「四方饅頭」は、生地だけのプレーンな食事パン。花巻と原料も作り方も似ていますが、ふわふわ+もちっとした食感で、花巻と同様に小麦本来の甘みがほんのり感じられます。半分に割ってチャーシューや角煮など肉料理を挟み、台湾バーガー風に楽しんでも。キツネ色になるまで揚げて砂糖をまぶしておやつにしても美味。

 豚×酸菜、豚バラ醬油煮、牛肉など、日本ではあまり出合えない具を包んだ肉まんも人気のアイテム。常時、4種類の肉まんを揃えていて、具の肉はもちろん「皮がうまっ!」と思わず声が出るおいしさです。

2025.06.28(土)
文=嶺月香里
写真=鈴木七絵