
香港の点心師を日本に招聘し、80年代に飲茶ブームを起こした点心・広東料理の老舗「菜香新館」。点心師の技をガラス越しに眺められるカジュアルな雰囲気の1階はよく知られている光景ですが、今回ご紹介するのは最上階の5階に位置する「清芳春ティーラウンジ」。知る人ぞ知る、予約者限定のフロアです。
ここでいただけるのは、「清芳午餐(せいほうランチ)」。平日の1日50食限定で、前日までに要予約とハードルが高く感じますが、「菜香新館」は中華街きっての人気店。平日でもお昼時は行列ができ、週末は2時間待ちなんてこともザラなので、待たずに特別感が味わえる「清芳午餐」が正解! とも言えるでしょう。
知る人ぞ知る、老舗の最上階に広がる「異空間」

エレベーターで5階に上がると、そこはノスタルジックな異国情緒が香る別世界。バックライトに照らされた茶壷(中国の急須)が美しく並ぶカウンターや、アンティークの調度品が並ぶ店内は、重厚感がありつつも、肩ひじはらずに過ごせる居心地のよさ。事前に予約した人しか入れない特別感が、優雅な雰囲気をかもしだしています。

記念日などの特別な集まりの時は、邸宅の一室のような個室をぜひ。ヨーロッパの文化を色濃く残す租界時代の上海をイメージした空間は、プライベートなサロンを思わせる上質でいて心地のよい空気が流れています。本物のよさを知る元町・山手のマダムたちにも人気、というのも納得の空間です。
瀟洒な鳥籠で味わう、旬の食材を使った広東名菜

コースは広東料理ならではの焼き物や、食欲をかきたてる野菜の甘酢漬けから始まり、中国茶でほっとしたころに鳥籠のスタンドが登場します。三段仕立てのスタンドは、思わず歓声が上がるかわいらしさ! 最後のデザートまで全14品が登場しますが、1つ1つに味のメリハリがあり、しかも体に沁み入るおいしさ。
医食同源を意識し、旬の食材をふんだんに盛り込むため、料理の内容は四季(3カ月)ごとにチェンジ。いま体が欲している味が、懐石料理のように一皿ずつ味わえるという贅沢さ。とても手間がかかるので、食事のスタート時間が指定されているというのもうなずける、質・量ともに充実のランチといえます。
2025.05.02(金)
文=嶺月香里
写真=鈴木七絵